艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
脱いで走ってしまおうか、と考えていると、私の肩にある柳川さんの手にぎゅっと力がこもった。
周囲のざわめきが増した気がして、顔を上げる。


「……葛城さん!」


葛城さんの目が私たちをとらえ、幅広の階段を斜めに私たちに向かって上がってくるところだった。


「藍、大丈夫? 心配しなくていいよ」


こんな時でさえ、彼は優しく微笑んだ。それで少し、強張っていた身体の力が抜ける。
葛城さんの方へ走り寄ってしまいたかったけれど、柳川さんがそれを許さない。


「葛城、そこで止まって」


言われて葛城さんの足が一度止まる。けれど、斜めに距離を詰めながら上がるのはやめただけで、一段ずつゆっくりと二階、私たちと同じフロアにたどり着いた。

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