艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
私を腕の中で閉じ込めたまま、彼の反応が無い。

「あの……圭さん?」

素直じゃなかっただろうか。
また意地っ張りなところを見せてしまっただろうか?

抱き込んで離さない彼から、直後深々とため息が聞こえた。

「……ダメでした?」
「ダメじゃない」

じゃあ、なんのため息だろう。
と考えている間にも、まただ。しかし今度はその後、くっくっと喉を鳴らして笑い始めた。

「ダメじゃないけどね、思い出した。君は本当に出会ったときからしっかりしてるなあと思ってたし、しっかりしすぎて助けに入る隙がなくて」
「え、なんの話で」
「君が退職したばかりの頃。俺が急がせたこともあったし大変だろうから、早めに同居だけでもするか、君が嫌がったら生活費だけでも俺が出そうと思ったんだけど……君にひとこと、『貯金があるので』と言われたことを思い出した」

ああ。そういえば、そんなことが。

彼は私の頬に手をやって向き合うように角度を変えさせると、その手で髪を梳きながら言葉を続けた。

「君は本来、ちょっと世間知らずなとこもあるけどしっかりしてるよ。自分のことは自分でできるし、大抵のことは解決できる。今はちょっと、初めて体験することに神経が張り詰めてるのかもしれないね。いつもしっかりしすぎてるくらいだから、逆に頼ってくれた方が、嬉しいくらいなんだけど……」
「わっ、圭さん?」

私を抱えたまま、彼がころんと横に転がった。

「なかなか頼ってくれないとこも、ひっくるめて『君』なんだよね、それもよくわかってるから」

困ったように、その眉尻が下がっている。
けれど彼は、三度目のため息とともに苦笑いをした。

「だからやっぱり、そのままの君でいてくれたらいいよ」


額をくっつけて、近すぎる距離では彼の表情はほとんどわからない。
だけど目尻を柔らかく下げて、多分きっと笑って彼は「たまには甘えてくれたら嬉しいけど、と付け足した。


それから、彼が気遣いながらも今までよりは私に触れてくれるようになって、私のマタニティブルーは治まったりぶり返したり、を繰り返しながらも私たちなりに妊娠期間を過ごし。

その日がやってきた。

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