艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
それにしても、スマートな対応だった。突然のことだったのに顔色ひとつ変えず、店への手配を済ませるために祖母と私をまずラウンジに案内したのだろう。
彼が消えた方へ急ぎ歩くと、すぐにその背中は見つかった。声をかけようとしたがどこかに電話をしている最中だと気付き、静かに近づく。
「……それから、座敷ではなくテーブルの方へ。……はい、個室でなくて構いません」
やっぱり、思ったとおりだった。
「葛城さん」
通話が終わったタイミングで、声をかける。気づいた彼が振り向いて微笑んだ。
「どうかした?」
「すみません、急な変更でご迷惑をかけたのではないかと……」
「大丈夫。店の方も快く了承してくれたよ」
「……それだけじゃなくて。祖母の足のことも気遣ってくれてありがとう」
さっきロビーですぐに座れる場所まで案内してくれたことも、店に座敷ではなくテーブル席にと伝えてくれたことも、きっと祖母の足元を気遣ってくれてのことだ。
ぺこん、と一度頭を下げてお礼を言うと、それこそ彼はなんでもないことのように笑った。
「俺の祖母が、足が辛そうだったからね。だから気付いただけだよ」
彼はそう言うけれど、例え祖母の足が悪いと知っていても、正座が辛いからテーブル席がいいだとか何も言わずにわかってくれる人は少ない。