艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
それに、人が多すぎてとてもじゃないが誰が誰だなんて把握できるような状況でもなかった。


「柳楽堂も花月庵の主菓子の技術と顧客を狙ってる」

「え、でも。柳楽堂はどら焼きで既に名前は知られてますよね。宮内庁御用達と言えば柳楽堂ですよ」

「主菓子まで分野を広げていきたいんですよ。各界名士や実業家の集まる茶会で、主菓子を提供できるようになれば箔が付く。もちろん柳楽堂として」


最後、声がとても冷たく聞こえた。


『柳楽堂として』
つまりそれは、花月庵の名前は消えるということだ。両親が、祖父と祖母が、大事に守って来た花月庵が、都合の良いところだけ吸い取られて消滅する。


初めて知った花月庵の現状に、自分がどれほど呑気でいたのか思い知らされ、息を飲んだ。
声も出せないまま、葛城さんの目に正面から見据えられる。この話は作り話じゃないのだと、その目で悟った。
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