おもかげlover...〜最上級に最低な恋〜
真っ黒なワゴンRからエンジン音が響いている。
マフラーからはモクモクと白い煙。
水島くんの車は見慣れているはずなのに、今日はいつもより特別に見えてくる。
助手席のドアに手をかけて、そこでピークだった胸の鼓動は一旦おさまった様な気がした。
でも、それはおさまったのではなく次への準備だった事にすぐ気がついた。

気合を入れすぎたせいか、ガッとドアを開けてしまった。

「うわっ、びっくりしたー!」

と、驚きながら笑ってくれたその顔を見たらシミュレーションした全ては一気に頭から消えた。

「ごっ…ごめん//」

車内ライトのブルーが水島くんを照らし、その中にわたしも潜り込む。
深く静かな海に溺れてもいいと思えるほど、わたしは水島くんに惹かれている。

「あっ、靴のまま乗っちゃった!ごめん!」


慌てすぎて乗る前に聞くのを忘れた自分が嫌になる。


「あっ!そのままで大丈夫だよ」

と言われてホッとした。
車の中は整っていて、ブルーのライトがとても心地良い。
水島くんを見れずに、言葉のひとつも出ないわたし。

「店、相変わらず暇そうだね」

ガラガラの駐車場を見回しながら水島くんが言う。
わたしは頷きながら、在り来たりな言葉を返し、チラッと運転席を見てすぐに前を向いた。

「じゃあ行こっか。
あっ、なんか聞きたい曲とかある?iPodに入ってればだけど流せるよ。」

「えっ、いいよいいよ。
水島くんの好きなの流して」

「いや、せっかくだし好きなの聞きながらのがいいっしょ?
つってもさ、兄貴が勝手に入れてくれたやつだから聞きたいのが入ってない確率が高いかも!笑
そしたらごめん。」

そう言ってピコピコとiPodを操作しはじめた。

「えっ…なら…。……フユコイ」

「ん?な、なに?もう一回言って?」

と、少し含み笑いで聞いてきた水島くん。
「え…フ…フユコイ//」

もう一度伝えたタイトル。
カラダが熱くなっていくのがわかった。


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