王子様と野獣
「主任」
「うん?」
「なんで仲道さんを振ったんですか?」
今ここで問いかけられるとは思わなかった。俺が二の句を告げずにいると、田中さんは畳みかけるように言う。
「私に気を使っているんなら、却って失礼だからやめてくださいね」
「そんなことは……」
「同情されるのなんてまっぴらです。このままじゃ瀬川さんにとられちゃいますよ。いいんですか?」
「……田中さん」
「言いたいことはそれだけです。失礼します」
頭を下げ、田中さんは小走りに去っていく。
「……若いのばっかりのせいなのかな。会社でこんな……恋愛でこじれるもんか?」
ポソリとつぶやいたのは本音だ。
大学以降、恋愛とは遠いところに自分を置いてきた。金髪が人の目を引くことも分かっていたから、女性のことには出来るだけ無関心を貫いた。
穏やかに、平坦に、優しくも厳しくもない無関心。それが一番、女性の気を引かないから。
そういう意味で、瀬川は自分に近しいと思っていた。
会社の人間には敢えて壁をつくるようなところがあり、阿賀野とは対極。
五人中ふたりが恋愛に無関心ならば、自然にクールな空気が出来上がる。
田中さんとの政略結婚の噂も、だいぶん前から流れていたけれど、今までこんな空気になったことはなかったのに。
モモちゃんの存在で、がらりと変わった。
あの瀬川があれだけ熱くなって、俺以外にはつんつんしていた田中さんが、こんなにも人にかまうようになった。
いい意味でも悪い意味でも、彼女の存在感はすごい。