王子様と野獣

「結局、お前に必要だったのは、この人の言葉なら無条件に信じられるって人間だったんじゃないか?」

「無条件に?」

「俺は俺なりに、お前はそのままでいいってずっと伝えてきたつもりだ。でも、お前は直ぐ自信を無くしただろ。そういうのを埋める人間はおそらく家族ではないんだ。全くの他人を信じることができるようなって初めて、埋めてもらえるものなんだろう。……お前にとって百花ちゃんはそういう相手だってことだよ。全面的に協力してやるから、ちゃんと物にしろよな」

「ありがとう」

「……まあ、なんだ。相談に来てくれたのも嬉しいしな」

「そりゃ……俺がなりたい理想は父さんなもんで」

「あら、よかったわねー。あなた」

ひょっこり母さんが顔を出して、照れた父さんが「聞き耳立てんなよ」とそっぽを向いた。

「私も嬉しいわ。百花ちゃんが来てくれるようになってから、浅黄も頻繁に顔を出してくれるようになったもの」

「そうだよ。浅黄が来ないってこの数年すごくうるさかったんだぞ。茜も萌黄も」

「……そうなんだ? それはごめん」

もしかしたら、俺が自分を大事にしないのは、この人たちを裏切ることになるのかもしれない。

そう思ったら、ひどく気が楽になってきた。
多分俺は、幸せになっていい。そうすれば、この人たちが喜んでくれるから。
俺を不幸にしていたのは、俺自身の勝手な思い込みだったんだ。

心の中にずっとはびこっていた不安の塊は、いつしかすっかりなくなっていた。
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