王子様と野獣
* *


翌週末、あさぎくんは本当に私の家にやって来た。
結婚とか関係なくと言っていたくせに、あさぎくんはしっかりスラックスにジャケットを合わせていて、普通にカジュアルだった自分が恥ずかしい。

「そんなにかしこまった格好しなくても」

「そこまでかしこまってないよ。それに、好きな子の親御さんに会うんだし。いい印象持たれたいじゃん」

「そ、そうだけど」

そんなこといったら、普段着で【宴】に通っている私の立場はどうなるの。

「あさぎくんは緊張しないの?」

「してるよ?」

「嘘」

「してるって。でも、父さんから秘策を伝授してもらってきたから、自信はある」

片目をつぶって笑って見せる。秘策ってなんだろう。
何度か聞いてみたけど、それは教えてもらえなかった。

電車を乗り継いで実家へと向かう。
あさぎくんが対策を練る時間があるということは、うちの父のほうにも同じだけの時間があるわけで。

「いらっしゃい」

にこやかに迎えてくれる母に対して、父は奥から出てこない。
大人げないな。別に結婚とかいう話じゃないって言っているのに。

「モモ姉の彼氏? やばい、格好いい」

すぐに飛びついてくるのは末っ子の十和。

「やばい。金髪だー。王子だ王子」

そのセリフに笑い出すのはあさぎくん。

「あさぎくん、なんで笑うの」

「だって。モモと同じこと言ってるから」

その王子様スマイルやめて。こっちの顔も真っ赤になっちゃう。
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