人魚のいた朝に
その為、受け入れ先の病院を探すのに、父も協力をしていたそうだ。
僕らから二日遅れて帰ってきた父は、初空が一度だけ目を覚ましたことを教えてくれた。
だけどまだ、あのガラスの部屋から出られずにいると言っていた。
初空に会いに行きたいと言ったけれど、今はダメだと言われるだけだった。
それから数日して、初空は名古屋の病院に移った。
彼女の母親の親戚が名古屋に住んでいたこともあり、おばさんも暫くそっちで生活することになった。
一度荷物を取りに帰ってきたおじさんと会ったけれど、とても憔悴していて見ているのが辛いほどだった。聞かなくても、初空がまだ元気ではないことが分かった。
冬休みが終わり、新学期が始まっても初空は帰って来なかった。
その頃には、小さな町中に初空の事故のことは知れ渡り、誰もが心配をしていた。
煩いくらいに活発で、太陽みたいに明るい初空が居ない町はなんだか静かで、学校に行ってもみんなどこか元気がなかった。
「もう元気にご飯も食べて、煩く喋っているらしい」
父がその事を教えてくれたのは、二月が始まる少し前だった。
「それなら、初空はもうすぐ帰ってくるの!?」
夕食の席で興奮して立ち上がった僕を、家族は驚いたように見た。
「青一は、初空が大好きだなー」
二番目の兄が、揶揄うようにそう言うから、恥ずかしくなって椅子に座る。そんな僕に、父は優しく笑いかけた後で、いつもよりも真面目な顔をした。
「初空はもうすぐこの町に帰ってくる。だけど、ときどきは病院に通う必要があるから、学校を休む日もあるかもしれない。だからお前には、あの子の力になってあげて欲しい」
「そうなの?初空はまだ、どこか悪いの?」
「・・・そうだな。帰って来たらわかることだけど、初空には少しの障がいが残っているんだ。だから入院も長引いてしまった」
「障がい?」
父の隣に座る母が、なんだか悲しそうな顔をしたから、続きを聞くことが怖くなった。
「初空は、歩けないんだ」
静かな食卓に落とされた父の言葉に、兄たちの箸が止まるのを感じた。僕は、一瞬だけ自分の心臓が止まった気がした。
僕よりも走るのが速くて、いつもあの砂浜を駆け回っていた初空。
僕らから二日遅れて帰ってきた父は、初空が一度だけ目を覚ましたことを教えてくれた。
だけどまだ、あのガラスの部屋から出られずにいると言っていた。
初空に会いに行きたいと言ったけれど、今はダメだと言われるだけだった。
それから数日して、初空は名古屋の病院に移った。
彼女の母親の親戚が名古屋に住んでいたこともあり、おばさんも暫くそっちで生活することになった。
一度荷物を取りに帰ってきたおじさんと会ったけれど、とても憔悴していて見ているのが辛いほどだった。聞かなくても、初空がまだ元気ではないことが分かった。
冬休みが終わり、新学期が始まっても初空は帰って来なかった。
その頃には、小さな町中に初空の事故のことは知れ渡り、誰もが心配をしていた。
煩いくらいに活発で、太陽みたいに明るい初空が居ない町はなんだか静かで、学校に行ってもみんなどこか元気がなかった。
「もう元気にご飯も食べて、煩く喋っているらしい」
父がその事を教えてくれたのは、二月が始まる少し前だった。
「それなら、初空はもうすぐ帰ってくるの!?」
夕食の席で興奮して立ち上がった僕を、家族は驚いたように見た。
「青一は、初空が大好きだなー」
二番目の兄が、揶揄うようにそう言うから、恥ずかしくなって椅子に座る。そんな僕に、父は優しく笑いかけた後で、いつもよりも真面目な顔をした。
「初空はもうすぐこの町に帰ってくる。だけど、ときどきは病院に通う必要があるから、学校を休む日もあるかもしれない。だからお前には、あの子の力になってあげて欲しい」
「そうなの?初空はまだ、どこか悪いの?」
「・・・そうだな。帰って来たらわかることだけど、初空には少しの障がいが残っているんだ。だから入院も長引いてしまった」
「障がい?」
父の隣に座る母が、なんだか悲しそうな顔をしたから、続きを聞くことが怖くなった。
「初空は、歩けないんだ」
静かな食卓に落とされた父の言葉に、兄たちの箸が止まるのを感じた。僕は、一瞬だけ自分の心臓が止まった気がした。
僕よりも走るのが速くて、いつもあの砂浜を駆け回っていた初空。