運転手はボクだ
「…そう。そんな事がね…。成君的には急に騒がしくなったわね、今まで、良くも悪くも千歳君と二人だけだったから」
「はい。迂闊でした。日頃、俺としか居ないから。よく考えたら男とは違うからそうなんだけど、何て言うか、言葉にされると…そうなるんだけど、俺が思い当ってなかったというか…」
「だって、一緒に寝たらして当り前よ。保育所で、お友達のママとの話は散々色々聞かされてるはずよ?ママのおっぱいとか、よくする話でしょ?お母さんが居たら、赤ちゃんの時から触れてるもの。小さくても千歳君なりに気は遣ってる。成君に話してないだけよ?」
…。
「俺は駄目だな、なんて思わないのよ?思ったでしょ。そんな事、大したことじゃない。小さい子供にだって子供なりに内緒ってあるのよ。それに、えみちゃんはそんな事で機嫌を損ねて怒るような子じゃない。なんていうか、とてもふんわりと温かい、母性の塊みたいな子じゃない?
それを千歳君は敏感に感じ取ったのね。…いい感性してるわ」
「でもですね、迷惑はかけてるから…」
「とと~、みて?おきがえおわった」
手を繋いで出て来た。
「私は見てただけで、一人で着ましたよ?」
「…有り難う」
脇を肘で突かれた。
「あ、た」
「ね?いい感じ。私は大丈夫だと思うけど?…。なんなら千歳君見てるから、朝食の後で二人で出てきたら?こういう時は、そう無いかも知れない。使える時間は無駄にしない事よ?」
…。
「とと?」
「あ、ああ、ご飯、食べようか」
「うん」
「千歳君、おばちゃんと一緒にトントンて、じゃんけんしながら下りようか」
「うんいいの?」
「いいよ~。じゃあ、じゃんけん…ポン!」
「ぼくのかちー」
「じゃあね…こうして、パイナップルって下りるの」
「もう、ついちゃう」
「そうね。階段、ちょっとだから。もう一回勝ったら千歳君の勝ちね」
「フフ、朝から元気、楽しそうですね」
「あ、うん。…おばあちゃんみたいな感じかな…」
「ちょっと?聞こえてるわよ?誰がおばあちゃんですって?」
「いや、言葉のあやですよ」
「せめて近所のおばちゃんくらいにしといてよね」
「じゃんけん…」
「あ、ごめんごめん。じゃんけん…ポン。あーまた負けたー。強いねー千歳君」
「うん、ぼく、つよいんだ」
…千歳。強い意味、もっと違うからな。
「ついた。ぼくのかちー。いちばん」