運転手はボクだ

「帰り、夕方くらいに着く感じで大丈夫?」

「え?、あ、はい。私は別に、お任せします」

「じゃあ、昼頃出ます」

「はい」

…。人前だからだろうか。千歳君の事があったせいだろうか。言葉遣いが丁寧…。もう帰るからだろうか。

「あの、この後、ちょっと出ませんか?」

「え?」

「何がって、訳じゃないけど、ちょっと…散歩?」

「では千歳君も…」

「あっと、千歳は…」

「え?」

「二人で…で、す」

あ。
急に奥さんが千歳君の肩を掴んで、くるりと自分の方に向けさせた。

「ねえ千歳君、おばちゃんとおじちゃんとお買い物に行くんだけど、お手伝いしてくれる?」

「うん。いいよ。ととにきかなくちゃ」

トコトコと、椅子を下りてこっちに来た。

「とと、おばちゃんがおてつだいしてって」

…。

「いいんですか?千歳…」

「勿論、お手伝いもお勉強のうちよ?お昼前には帰ってくるから。ねえ、あなた?」

「ん?ん、ああ。ゆっくり帰ってくるから」

…。

何だか…おかしい。ご主人が変にカタイ。何か仕組まれてる気がする。…でも。

「じゃあ、千歳、トイレとか、早目にちゃんと言うんだぞ?それから、何か、買ってとか言わない…」

「わかってる」

…。

「じゃあ、ここ片づけたら連れて出掛けるから。…心配しないで?近所に出掛けるだけだから」

「あ、はい。千歳…」

「とと、バイバイ」

「う、ん」

ご主人のそばに行って、読んでいる新聞を横から覗き込んでいた。

「離れた事、無いんじゃないですか?」

「あ。うん、そうなんだ…」

そうですよね。保育所に預けて居る時以外は片時も離れず、守って来たって感じですよね。

「心配なら…」

散歩だって、散歩にならないでしょうに。
別に私は…。無理してまで…。

「いや…心配でも…過剰に心配しても…。俺の方が少しずつ子離れが必要になって来てる時なんだと思う。千歳の中では世界も…今から広くなって行くんだから」

鮫島さん…。




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