運転手はボクだ
「ご馳走様でした」

ダイニングに戻ると、鮫島さんが丁度食べ終わったところだった。

「…はい。あ、そのままで、後片付けは私が…。社長もあがりました、お風呂、どうぞ?」

「いや、これは俺のするべきことだから」

「いいんですよ」

「いや、するから」

…。

「では、珈琲でも…」

「いや、飲むなら自分でするから大丈夫だよ」

「は、い」

んー…いつもこうなってしまう。
解る、解りますよ?きちんと線を引いておきたいって気持ち。私はこの家のお手伝いさんであって、鮫島さんの身の回りまで完全にするのは仕事ではないって。
せいぜいご飯の用意と、突然遅くなった時の千歳くんの世話…。くらいしか関われませんから。でも、そういうの関係なく、いいのに。

カチャカチャと、少ない数の食器を洗うと、手早く珈琲を入れ、ダイニングから鮫島さんは居なくなってしまった。
…はぁ。ちょっとくだらない話でもって、話すって事も…ほぼ無いのよね…。朝だって、今くらい話せるのが関の山で…。解ってます、千歳君と話す事が一番にって事も。んー…。


「ふぅ…恵未ちゃん、お茶にしようか」

あ、いけない。用意がまだだった。この方は、必要以上に話すんだけどな。

「すみません、直ぐ…。あ、まず水分補給…お水。
はい…お水を先に飲んでください」

「ん。有り難う。
千歳は小豆と抹茶ならどっちが好きかな…ふぅ、美味い…」

「え、あ、水羊羹ですか?小豆がいいと思いますよ」

飲み干したグラスを受け取った。

「じゃあ…明日の食後にでも食べるといい」

「はい。解りました、忘れず出します」

「ん。恵未ちゃん…、どう?風呂が駄目なら一緒に寝ない?」

「…はあ?何言ってるんですか?
…はい、どうぞ…。お風呂上がりですし、お茶は冷たい緑茶にしました」

「有り難う。一緒に…」

「だからですね。寝るのは…」

「食べようか、水羊羹」

…もう。

「フフ、ハハハ。顔が可笑しな事になってるぞ。フッ。意識してるのは恵未ちゃんだったりして。
たまに、遅くなった時は添い寝してるだろ?千歳には。今日だってしただろ?だから、私にも添い寝して欲しくてね」

「もう…旦那様が、いつもそんな可笑しな事ばかり言うからです…本当に…」

「言ってないと忘れられてしまうからね。気があること…冗談なんかで済まされると悲しいじゃないか」

いやいや、この言動、いつもからかわれてるとしか思えませんけど?それと…んん、これは余談だけど。
お風呂上りに浴衣を着て、前の合わせから色気をダダ漏れさせて、と思ってるのは私だけ、か…。もしかしてお色気アピールのつもりなのかな。…どう思うかは、見てる私の内面の問題か。

「急に頼んだ事だったけど、よくやってくれて助かってるよ」

「え?」

「冗談抜きで」

んー、こんなところは…不意にちょっと…ずるいかも。誉められて嬉しくない人なんて居ないと思うから。…ずるい人だ。

「…はぁ」

「ん?どうした?まあ、座れば?あ、水羊羹は私が出そう」

「あ、すみません」

なんだか、言われるがまま座っちゃった。ごめんなさい。

「いや…、私はお茶を頼んだだけだから…。恵未ちゃんはどっちがいい?」

冷蔵庫を覗きこんでいた。小豆か、抹茶か…。悩ましい。大きさは?長いタイプ?小さく包装されているタイプ?容器に入ってるタイプかな…。

「私は、ん-、抹茶がいいです」

遠慮はしない。

「ん。抹茶ね…」

ガタッ。

え?

ガタガタッ。

「お゙っ…とと」

「えっ?旦那様?!」

「…お………お゙ーーー…」

え゛?…な、に?
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