運転手はボクだ
「ハハハ、ハァ。あ~あ。本当、そそっかしいよね、恵未ちゃんは」

面白くて堪らないらしい。やっと、笑いが止まった。

「…すみません。でもてっきり…」

「倒れたと思ったんだ」

ダイニングに大代さん、そして、鮫島さんと私が居た。

鮫島さんは部屋に戻り、ルームウェアを着て戻ってきていた。
三人で水羊羹を食べていた。

「はい…」

「だから、大変だ!って、鮫島を呼びに走ったんだ」

「…はい」

「私の止める声も聞かず」

「…はい、一目散に…」

だって、倒れたと思ったんだから仕方ないです…。止める声なんて聞こえませんでしたし…?

「ハハハ。鮫島もビビるよな?血相変えて来られると。風呂どころじゃないよな」

「はい、もの凄い勢いでしたから。
さ、鮫島さん!鮫島さんっ!て。ドンドン戸を叩かれて。それが壊れそうな勢いで。…俺が襲われるんじゃないかってビビりました。それで慌てて、出て」

「フ、ハハハッ」

「そしたら、社長が大変です!って聞いて。また慌てました」

「ハハハッ。最高だな、はぁ」

鮫島さんは慌ててお風呂から上がり、飛び出して来てくれたんだ…。そして、走ってダイニングに。

「ん。だから、腰にバスタオル一枚で駆けつけ、私をそっと優しく抱き起こしたって訳だ」

「…はい。…まあ」

二人の姿を思い出していた。声を掛けられ優しく抱き起された社長はキョトンとしていたし…はぁ、やっちゃったって、思った時は遅かった…。私の時間は止まった。
…社長、これだ、って、懐から水羊羹を取り出したんだ…。羊羹は丸い容器のタイプだった…。

「……あの…すみません。悪いのは私です、私の早とちりのせいですから」

もう許して……。
ガタガタッて音がした後、まさか、落ちそうになった水羊羹を受け止めて、結果、丸まるように横になったなんて思わなかったから…。それに唸ってそのままじっとして動かなかったし。普通まずいと思うじゃない?

ドア側の棚に積むように入れてたなんて知らなかった。
だから、開けた勢いで揺れて、結果落ちた…。それがたまたま、浴衣の合わせから入ったなんて。…それが肌に直に触れて冷たかったなんて。…あの叫びが、それだったなんて…。
変に唸るような声だったから…。だけど、それは冷たかったから、だったなんて…。知らない解らない。
だから慌てたのよ。
動かない人を変に揺すったり、急に起こして、処置が悪かったせいで……とかになったら大変だし。
でも、急は要するでしょ?
対処は早い方がいいって言うし。だから、鮫島さんのところに。
…戻った時だって、まだ横になってたままだったし。………もしかして…それはわざと?…そのまま待ってたの?…。

「じゃあ、俺はこれで。ご馳走様でした」

「ん、ああ、何だか悪かったな。騒がせて。風呂、入り直さなくていいのか?」

「はい、もう出るところだったんで…」

「ん、おやすみ」

「はい、お疲れ様でした」

「ハハハ、本当、お疲れ様だ。あ、本当に倒れた時は今日みたいに優しく頼むな、ハハハ」

「解りました、大丈夫です」

…ちょっと…私に対するからかった会話だ。

ちゃんと謝らなくちゃ。こんな事では安からないだろう。
廊下を歩いて行く鮫島さんの後を追った。
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