運転手はボクだ
「鮫島さん、あの、待って…」

「ん?…フ、そそっかしいな」

立ち止まった。

「あ、本当に、すみませんでした。お騒がせして…」

頭を下げて謝った。

「そんなにしないで?別にいいから。間違ってもいいと思うよ?日頃から気を付けてないとね。いざって時に本当に慌てるから」

…今回、私は慌てただけでした。一人だったら私が介抱できなきゃ駄目なんだ。

「…じゃ」

「…おやすみなさい」

あ。…鮫島さん…行っちゃう。

「おやすみ」

「鮫島さん…」

「…何?」

…何って言われても…何も無いけど…。

「いいえ、なんでも。おやすみなさい」

「…おやすみ」

…。

「あ、の…」

「な、に?」

あ、どうしよう…。特に、何って…話はない。でも、もう少しだけでも…。

「恵未ちゃん…今日も有り難う、千歳の迎えとご飯と、…風呂。寝かしつけてくれて」

「あ、それは大したことではないですから」

顔の前で手を振った。

「でも…風呂は一緒に入ってくれたんだろ?」

「それは、はい」

「はぁ、すまない。千歳がせがんでも、俺が帰って入れるからいいんだよ?」

…でも。そう言われるのも解ってるし、…してはいけないって事も。
もう、千歳君のお願いは聞かない事にしていた。
それは解ってる。安に馴れ合っちゃいけないって。
こんな生活になって余計難しくなった事も。

「えみちゃんはお手伝いさんというお仕事だから」

「ん?」

「と、千歳君には言ってしてます。だから、それなら、大丈夫ですよね?」

「しかしだな…」

「そうできる環境なんですから。手伝っても大丈夫だと思います…あくまで、存在は、お手伝いさんですから。私」

だから、それなら、いいでしょ?

「お風呂、鮫島さんが一緒に入れる回数を減らしてしまって、そこは申し訳ないですけど」

「いや…それは構わないが。だけど…」

大人の屁理屈です。千歳君にはそんな事、関係ない、接するのは同じ事だって、解ってます。

「あのですね、あまり遅くなっても、リズムが乱れてしまうでしょ?千歳君だって生活パターンも出来てますから」

「…その…大丈夫?…風呂、一緒にって…」

鮫島さんの心配はそこもある。気にしてくれている。でも平気。抱っこして湯船に入って…千歳君が触ったって。

「大丈夫ですよ?何も、問題ありません」

…。

「何も…千歳は…触ったりだとか…」

してる、と、思ってるのよね。千歳君も話してるかも知れない。言ってるかな、多分。話してるよね。お父さんと話をするの大好きだもんね。

「大丈夫です、子供なんですから」

「俺も」

……え゙っ?

「そんなに遅くなるって事はないんだ。どちらかと言えば、恵未ちゃんが居るって事で、社長がかまわないだろうって感じなんだ。少々遅くなる時があってもって」

あ…そうですよね、そっちの話…ですよね。…俺もって、ドキッとしちゃった。

「はい、構いませんよ?」
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