運転手はボクだ
「こんな暑い中、ご苦労様でした、有り難うございました」

冷たい麦茶を出した。

午後から来た業者は、鯉を掬い出すと、水を入れた透明な袋に入れ、酸素を注入させ運び出した。
池の水を抜き、綺麗に洗い、シートを敷いた。板枠を入れ囲いを作りまたシートを敷き、浅めに入れた水の中に金魚が放された。
滴る汗を、首に掛けたタオルで拭いながらの作業だ。

「はー、美味い…。何より御馳走だ。…生き返りましたよ、奥さんご馳走様でした。ふぅ。また明日ですね、入れ替えに来ます。明日は朝の涼しい内に来ますんで。
あ、そうそう…これ…大事なもの…」

そう言って、帰って行った。奥さんではないのだけど…社長が言ったのかな…。
…はあ、それにしても、わざわざ池に入れなくても。ここまでするなら夜店にあるような容器に入れて、ブクブクさせてもいいんじゃないかと思うけど。
帰り際に、ぽいと掬った金魚を入れる容器を渡された。…本格的だ。
もしかして…、中に入って掬うってことなのかしらね。


ジャリジャリバキバキと玉石を踏む音が聞こえてきた。帰って来たんだ。

ガラガラ。勢いよく戸が開く音がした。

「ただいまえみちゃん!きんぎょは?」「恵未ちゃん!金魚は?」

…二人同時だ。

「お帰りなさい。ちゃんと泳いでますよ?池で」

競争するかのように千歳君と社長が駆け込んで来た。

「フ…ただいま。急げ急げ、はやくはやくって、二人でずっと煩かったよ」

「フフフ。お帰りなさい。大変でしたね、お疲れ様でした」

鮫島さんだけが大人みたい。千歳君のバッグを持っていた。

「旦那様、ご飯、先に…」

「ああ、食べたら金魚すくいだ。千歳、勝負だぞ?ほら、手洗い手洗い」

「うん。まけないから」

…。

もう勝負が始まっているみたいね、フフ。


頂きますと食べ始めた夕食は、時間の無かった今朝よりも早く食べ終わってしまうんじゃないかと思った。

「…ゆっくり…よく噛んで食べてください。すいか、冷やしてあります。金魚すくいの時に縁側で食べましょう。千歳君は水羊羹もあるからね」

「ぼくだけ?」

「そうよ」

…ごめんね。大人は諸事情で先に食べちゃったの…。

「千歳君、昨日、寝ちゃってたから。社長がくれたのよ?」

「しゃちょう、ありがとう」

「千歳、貸しができたな」

「かし?おかし?」

…貸し?何の貸しになるのかしら?

「ハハハ。そうではない。…よし、…ご馳走様、今日も美味しかったよ恵未ちゃん。千歳、準備してるからちゃんと全部食べてから来るんだぞ?」

…これは千歳君に負けないようにって、牽制かも。…味なんて解ったのかな…。

「うん。えみちゃん、えみちゃんもしよう?ぼくはしゃちょうときょうそうだけど、えみちゃんは、ととと、なかよくして?
…ごちそうさまでした。おいしかったよ、えみちゃん。ぼく、しゃちょうのとこにいってくる。とともえみちゃんもはやくきてね」

椅子から下りると廊下を走って行ってしまった。

…?私達は競争がないから、って事で、仲良く、なのかな?

「…鮫島さん」

「うん、何だか…やることなすこと似てきたな」

「はい…」
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