運転手はボクだ
「静かにしないとな…」

「…はい」

玄関から出て庭に回った。夜だ。ゆっくり踏みしめる砂利の音が殊の外大きい気がした。

コンッ。

「わっ!」「シーッ…」

「ご、ごめんなさい、鹿威し…まさか、このタイミングで鳴るとは…」

慌てて手で口を塞いだ。本当、気まぐれな鹿威しだ。

「フッ。もう、わって言った後だ。…ハハハ。おっと、俺も静かにしないと…」

そうだった…。フフフ。
抜き足差し足…忍び足です。



金魚すくいの道具もまだ片付けていなかった。そのまま置いてある。

「あの、私達も何かかけて、勝負します?」

「んー、直ぐに浮かばないなぁ」

箱の中のぽいを手に取った。容器と一緒に渡した。

「…ですよね。では、単純に。勝負のみで」

「よし、望むところだ」

「…あっ、アイス。アイスとか、どうです?」

「ん、別にいいよ」

あ、は。もうどうでも良かった感じですかね…。

「……じゃあ…勝った方は食べられて、負けた方は指を咥えて見てるだけですよ。いいですか?」

「我慢するって訳だ。中々、拷問だな、ハハハ。…おっと、静かに静かに…」

「…はい、静かに。では…短時間勝負で。5分でいいですか?それか、ぽいが壊れたら終わりです。どちらかで」

「了~解」

「では…用意…スタート!…あ」

「シーッ」

「は、い。シーッ…」

容器に少し水を汲み入れた。…はぁ…静かにしなくちゃいけない興奮なんて…余計ドキドキしちゃう。

「ん、あ、恵未ちゃんの方に行った。また別のも行ってる」

「え?これですか?じゃあ、貰っちゃいますよ?」

「あ、戻ってきた」

「あ、追いかけたらこっちが見えなくなります。え?あ、別にどれだって、掬えばいいんだった。ちょっと…暗いからどこに…」

光の筋の中で金魚がユラユラしていた。

「流石に庭の明かりも、社長の部屋の明かりも点ける訳にはいかないからね」

「はい、でも…これって、ほぼ見た目は金魚泥棒ですよね。フフフ」

「そうだな。コソコソヒソヒソ実に怪しい」

あ。……ぅ、びっくりした…。いつの間にか…思ったより顔が近かったから。…そ、そんな事、考えたら…薄暗いしドキドキしちゃう…。
一つの懐中電灯の明かりを頼りに掬っていた。
大小の黒い塊が池の淵に並んでじっとして腕だけ動いてる…本当に、怪しい影、動きだ。

「か、懐中電灯、もう一つ、持ってくれば良かったですね」

「ゴソゴソ探してたら遅くなる。一つあれば充分だよ、見えるし」

「…はい。あ!、掬えた。…ぁ」

「シーッ!」


もうそろそろ時間が迫って来てる。

「あ。やー…、壊れちゃった…」

「あー、俺もだ」

金魚は二匹ずつ取っていた。

「タイムオーバーの前に終了だな」

「はい、勝負も引き分けですね」

「ああ。んーー、久々に遊んだ…」

「金魚、返しましょうか」

「そうだな」

お互いに、トポ、トポと、池に放した。


「あ、アイス。引き分けです、どうします?」

「引き分けらしく半分こにするってどう?」

「あ、いいです。何だかそれ、いいです。勝負らしいです。
何味にします?確かあるのは…」

「シーッ。…先に戻ろう。庭先であまり煩くしてると起きるかも知れないから。いや、気配を感じて起きて様子を窺ってるかも知れない」

家の方をツンツンと差した。

「あ、フフ。はい、そんな気がしますね」

「絶体そうだよ。…足、痺れたりしてない?池、落ちないでよ?ハハハ。おっと、俺がよろけた。…セーフ」

「フフッ。そんなドジは流石に私でも…」

一日にお風呂で濡れ、池で濡れ、なんてなったら。…悲惨過ぎる。

「ハハハ。流石に何度もは濡れないよな」

…知ってるのよね。社長に濡らされたって。あんなにキャーキャー騒いだし、濡れた服もそのままだったし。…脱がされたとか…思われてないかな…。その上…裸で一緒に浸かってたとか思ってないかな。…一緒には入ってしまったけど…。

「あ、足元、気をつけてください」

「うん、俺は大丈夫だ」

「何だか…」「思い出すね」

「…はい」

星を見た時のことだ。

「あ゙っ」

…嘘。誰か…嘘だと言って。
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