運転手はボクだ
「…じゃあ、ちょっと溶けちゃうけど、千歳君にかき氷、買って帰ります」

「あ、うん。有り難う。恵未ちゃんからだと、余計喜ぶよ」

家で手持ち花火をするのもいいものよね…。線香花火もあるのかな。


「ただいま~?千歳君~?」

庭を見たけど居なかったから家に入って声を掛けた。

「えみちゃん?!…えみちゃんだ。
おかえり。わあ…、えみちゃん、すごくかわいいよ!」

玄関先に走ってきた。フフ、可愛い王子様…。褒めるのも上手ね。

「そう?有り難う。千歳君、これ、お土産!」

「あ、いちごのかきごおり」

「うん。ちょっと溶けてるけど食べる?冷蔵庫に入れて固めようか」

「うん」

手を繋がれて一緒にダイニングに行った。

「あ、かき氷、俺が入れるよ」

お願いしますと返事をした。鮫島さんが持ってくれた途端、千歳君はギュッと抱き着いてきた。

「あ、千歳君?花火、もうしたの?」

「…しゃちょうがね…」

見上げられた。ん?どうしたんだろ。

ダイニングに社長が居た。

「どうしたんだ…もう帰ってきたりして。千歳のことがそんなに心配だったのか?大丈夫だって言ってるだろ?今だって、なあ、千歳…」

千歳君が首を振った。

「しゃちょうね、へたなんだよ?はなび、なかなか、ひがつかないし。それに、あちちちちって、やけどしちゃうし、それで、はなび、なげちゃうし。ぼく、ちゃんとバケツにいれた。もう、めんどうみるの、たいへんだった」

「おい、千歳…」

それで中止?終わり?
はぁ…どっちが大人で子供なんだか…。でも…やっぱり二人はどこか似てるっぽい。

じゃあ、私としようかって、言おうとした。

「社長…、直ぐ出掛けてください。千歳の花火は俺がします。まだ打ち上げ花火も間に合いますから」

え?

「ぁあ?…どうして…私が行くんだ。今ちょっと…」

「モゴモゴ、なんです?気が気ではなかったのでしょ?恵未ちゃんのこと。だから失敗ばかり…。こんなんでは危なくて、千歳を見てもらう訳にはいきません。本意じゃないのに俺と行かせたりして。…はぁ。
行くなら気をつけてくださいよ?男の視線に。ちゃんと守ってくださいよ?」

…。

「譲られましたが譲り返しますから。元々自分でお膳立てしてた癖に。無理して俺に譲るからですよ?」

「…癖にとは…なんだ。癖にとは…」

「ああ、すいません。…恵未ちゃんの事に関しては、社長も…雇われ人も関係ないですから、いいですよね?」

「フ。はぁ、やっと火がついたか」

「は?」

「え、はなび、もうしてないよ?」

「千歳…。いいか、火というのは、恋の話。恋の、炎の話だ」

「ほのお?」

「そうだ。どれだけ恵未ちゃんの事が好きかって事だ」

「しゃちょう、やっぱりえみちゃんのことがだいすきなんだね。ぼく、しってたよ?」

「…ああ、ハハ、凄いな千歳は。ああ、大好きだ。だから、千歳にも、ととにも負けない」

千歳君をしっかりと見た。それから向けられた目線は、鮫島さんにだった。

「ととも、すきなの?…そうなの?」

千歳君が鮫島さんを見た。あ…。困ってるのは明らかだった。

「…千歳。違う…」

「だいすきなんでしょ?ととも。ぼく、しってる」

「千歳…」

…大人な発言ね。

「フフ。みんなすきだけど、ぼくがいちばん、ほのおだよ。ね、えみちゃん。ねえ、えみちゃん…、おふろ、もうはいった?」

あ、もう…。手を取って、上目遣いなんて…。

「フフ、入ったわよ?…フフフ」

「じゃあ、じゃあ、きょういっしょにねよう?」

本当に…一番に私を思ってくれているのは千歳君かも知れない。まだこんなに小さな男の子なのに。誘惑も…素直でストレートだから。

「駄目だ千歳!恵未ちゃんは今日は私とだ。そしてだな、恵未ちゃんと一緒に…」

あ、も゙う。また、そんな言い方をして…。

「ん゙ん゙。旦那様、子供相手に、もういい加減な…」

「かき氷を食べて来る。…ハハハ。ん?」

「あ、もう…」

これでは、私が…変な事を考えていたってなるじゃない?…。

「フ。鮫島がすすめてくれてるし。折角だから?出掛けようじゃないか。行こうか、…恵未」

…もう。直ぐ調子にのって…。そんな呼び方までして…。

「はい、解りました」
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