運転手はボクだ
いつもと違って、無口で大人しい千歳君を気をつけてねと普通に送り出した。疲れた顔をしていた。眠れなかったのだろう。悩ませてしまっている。
…成さんから連絡があった事、まだ伝えていない。結果がまだはっきりしてないから。知りたい言葉をまだ言ってあげられないから。
社長も今日は出社すると言って自ら車を運転して家を出た。
…普段通り。食事の後片付けをして洗濯をした。いい天気だ。痛いくらい眩しい。今日も、もう既に暑い。お昼にはすっかり乾いてしまうだろう。
掃除を始めた。
障子を開け放ち、奥の和室から、畳の目に沿って丁寧に、ただ黙々と掃除機をかけ続けた。…ん?パキパキと音がした気がした。よく解らない。掃除機の音とは違うと思ったけど、没頭していて、気のせいだったかも知れない。
…はぁ。まだ早いけど、お昼ご飯は何にしようか…。食欲はいつにも増して無い。昨夜も今朝も、箸は進まなかった。
カラカラ…。
…?玄関の戸が開く音がしたような気がした。掃除機の音でよく解らなかった。…成さんかも知れない。
慌ててスイッチを切り、持ち手を放り出し廊下に出た。
ここから玄関は解らない。足が速った。スリッパの音だけが響いた。角を過ぎた。あ。
人の影…。足が止まった。
成さんだ。成さんが立っていた。…帰ってきた。
走った。
近づいて…少し手前で止まった。一歩、二歩と近寄った。
「…成さん」
「…恵未。ただいま。ごめん」
「…お帰りなさい。……お帰りなさい…成さん」
腕を伸ばして、両腕を遠慮気味に掴んだ。
「千歳は?」
「学校に行きました。社長も、今日は出社しました」
「ん…」
…抱きしめてはくれなかった。
靴を脱いで上がるとゆっくりとリビングに入っていった。後ろからついて行った。
「あの…お風呂…いいですか?」
なんだか、本題から避けるように、出張帰りのような事を聞いてしまった。
「いや、大丈夫だ」
大丈夫なんだ。大丈夫って…何?…。
…私は何を考えているのだろう。
「恵未、話をしよう」
「あ、はい。コーヒー…コーヒーでも入れましょうか、冷たいの…」
「いや、今はいい。座ってくれないか」
「…はい」
ドキドキする。怖い…思考が止まりそう。
ソファーに向き合って腰を下ろした。俯き気味に胸で手を握った。
「詳しく話もせず、飛び出して悪かった。それからもずっと、碌な連絡もしないで…心配させたな」
「…いいんです」
行くように私が仕向けたんですから。納得のいくように、したいようにしてくれていいんです。
「終わったよ。だから恵未のところに帰ってきた」
あっ。