カボチャの馬車は、途中下車不可!?

「部長、もしかしてご存知なんですか、カレントの社長」
坂田が声をかけると、凛々しい太めの眉をチラッと上げ、「あぁちょっとね」って軽く笑う。
でもそれ以上話すつもりはないらしく、さっさと自分のデスクへ歩いていく。

「さっすがうちのレジェンド! 人脈半端ねぇな」
心酔しきった目を向ける坂田に、この時ばかりは頷いて同意する。

歴代最年少で部長職に抜擢された彼は、優秀な営業マンであることはもちろんだけれど、上司としても素晴らしい人で。
いつも冷静で決断力に優れていて、公平に私たちを見守りつつ育ててくれている。
だからうちのメンバーは、もう部長にメロメロなのだ。
もちろん、恋愛とは別の意味だけどね。


「あ、そうだ」
だしぬけに、新条部長が足を止めた。

「篠木」
「はははいぃッ」
直立不動で敬礼するラムちゃん。

「今日、青山が休みなんだ。トワズのマーケティングデータの集計、週明け提出になってただろ。お前ひとりでできそうか?」

「え、え、あたしですかっ!? ええと、えと、ががんばりますぅっ!!」

部長のご指名にノーなんて言える営業部員は、うちには存在しない。
ラムちゃんも期待に応えるべく、さっそくバタバタ駆けていく。

「青山さん、お休みなんですか?」
そういえば、斜め後ろの席がさっきから空いたままだった。

「あぁ、風邪だって。さっき連絡がきた」

風邪かぁ。
季節の変わり目って、ひきやすいのよね。

彼女って一人暮らしだっけ……
あとからライン送ってみようかな。

心の隅にメモした私は。
ようやく今日の仕事に取り掛かれることにホッとして、まずメールチェックから始めることにした。
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