カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「飛鳥、こっちこっち!」
8割がた埋まった社員食堂。
チキン南蛮定食のトレイを手にうろうろしていると、窓際から声をかけられた。
「ありがと、席とっててくれて」
お礼を言って、私は坂田美弥子(さかたみやこ)の向かい側に腰を下ろした。
「久しぶりだよね、美弥子と一緒にランチするの」
「だね。だって飛鳥、いつも外回りでなかなか社食使わないんだもん」
総務課に勤める美弥子は、一番仲がいい私の同期。
産休育休を経て復帰、今はリーママとしてがんばる彼女は、名字からもわかる通り、坂田の奥さんだ。
「それはそうと……聞いたよぉ、飛鳥マジック新記録更新おめでとう」
「やめてよそれ」
笑いをこらえながら辺りを見回す美弥子につられて、顔をあげれば。
こちらを見ていたらしい、女子社員たちの視線がパパっと離れていく。
……なんだか動物園のライオンにでもなった気分だわ。
「朝からさ、もう何度聞かれたかわかんない。『坂田さんて、真杉さんと仲がいいって本当ですか、紹介していただけませんか』って」
ぽろっと、箸からチキンが零れ落ちる。
もう勘弁してよ……。
「この際、いっそのこと婚活アドバイザーとかに転職しちゃえば?」
「美弥子、それ、激しく冗談に聞こえない」
「あは、ごめんごめん。飛鳥はまず自分の相手探し、だもんね」
「……それ、お宅のダンナにも言われた」
坂田家の食卓ネタ、どれだけ提供してるんだ、私って。
あんまり考えたくない……。
「もう三十路過ぎなわけだし、結婚相手にターゲットを絞った方がいいんじゃない? いないわけ? 取引先とか社内とか、知り合い多いんだから。一人くらい、いいなって相手」