カボチャの馬車は、途中下車不可!?

——そうか。構わない、パワハラでもセクハラでも、好きなように理由をつけて、出るところに出てみればいい。だが一つ言っておく。最低限のマナーも守れないような人間に金を払うほど、会社は甘い場所じゃない。そんなこともわからないような奴は、いつでも辞めてもらって結構。真面目に働いてる社員の士気が下がる。迷惑だ。


バンッ!!

ドアの一つがいきなり開いて、茶髪の女性がものすごい勢いで飛び出してきた。

「っ……」
一瞬立ちすくみ。
溶けたマスカラで真っ黒になった目で私をにらみつけると、そのまま非常階段のドアへと消えていく。

な、なに今の……。
唖然としながら見送っていると。

カチャ……
また、静かに同じドアが開いて——誰か出てくるっ!

こんなところにいたら、立ち聞きしてたことがバレバレだっ!
焦った私は、手近なドアの中へ間一髪飛び込んだ。


ペタッペタッて引きずるような、間延びした足音がドアの前を通り過ぎていく。

バクバク踊り狂う心臓を押さえながら、そぉっとドアから顔を突き出すと。
廊下の向こうに、小さくなっていく白衣姿の男性が見えた。

頭はもうだいぶ白いものが混じっていて、歩き方にも覇気がない。ずいぶん年齢高そうな感じで……定年間近かな?
老舗企業ともなると、ああいう生き字引的な人がいてもおかしくないのか。

上司よね、きっと。彼女の。
事情はわからないけど、なんていうか、とことん容赦ない人だったな。
あんな風に、ブリザード級にぶった切る人が上司だったら、毎日心休まる暇もなさそう。

改めて、新条部長の部下であることを神様に感謝した。
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