カボチャの馬車は、途中下車不可!?

「わざわざお越しいただかなくても、バイク便でお送りしましたよ?」
会議室に現れた樋口さんは、資料の入ったクリアファイルを私の前に置くと、本宮さんと同じことを言った。

一瞬、躊躇する。
開発部と広報部の確執を考えれば、彼に頼むのはベストじゃないかもしれない。
でも……この人しか私にとっての窓口はないんだから、四の五の言ってられない。

自分を納得させて、「実は」って切り出した。
「大河原部長にぜひご挨拶をさせていただければと、思いまして。前回お会いできなかったので」

「あぁ、なるほど。そういうことですか」
くるくるって回していた例のボールペンをぱたりと置くと、樋口さんは目尻を下げた。
「『大河原詣で』しておかないとプレゼン通過は厳しいって、聞いたんでしょう?」

「あ、いえ、そういうわけでは……」

「いいですよ。決定権が彼にあるのは、みんな知ってることですから」

「はぁ……その、すみません」

「何しろ、地獄のオニガワラですからね」
樋口さんはそう言って、おかしそうに肩を揺すった。その笑いに悪意は含まれていなくて、私はあれって首をひねった。
広報と開発って、仲が悪いんじゃなかったっけ?

「あの人は、確かに周りに高いレベルの要求しますけどね、それと同じくらいっていうか、それ以上のものを自分に課してて……すごい人ですよ。僕は尊敬してます」

広報部の中にも、大河原部長の味方がいるってこと?
一枚岩じゃないってことなのかな。
社内勢力図って、私たちの仕事にも関わる可能性があるから、情報共有はマストだ。帰ったら日下課長に話してみなくちゃ。

「ちょうどさっき、本人とすれ違ったんですよ。フロアに戻ってきてたから……これから直接行ってみますか?」

やった!
「はい、ぜひ!」って、私は前のめりに頷いた。よし、第一目標クリアだ。
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