カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「ところでさ、トラブルって一体何があったの?」
おにぎり2個と唐揚げをお腹に収め、いい加減仕事に戻らなきゃと思っていると。
椅子のキャスターをキコキコきしませながら、ライアンが聞いてきた。
「えーっと……」
固有名詞を出さなければいいかな、と私は言葉を選びつつ口を開いた。
「明日の午前中までにプレゼン1本できるように、ほぼゼロから準備しなきゃいけなくなったの」
「ゼロから?」
「そう。スタッフィングから何から、全部」
審査員候補のリストを振ってみせると、伸びてきた手にひょいっと奪われた。
「え、ちょっ……と!」
「何人か知ってるな……コックが必要なの?」
名前だけのリストから、それがどういう業種の人なのか読み取った彼にちょっと驚きながら、首を振る。
「一般の人が作った料理を審査してくれる人がほしいの。食品メーカーの仕事で、プレゼンでプロフィールも出すから、それなりに有名人がよくて。それで、料理研究家の先生をあたってるんだけど……なかなか急にはね。もう、諦めるしかないかなって……」
しばらく形のいい顎に手を当てて、何かを考えこんでいた彼は、ふいに私を見た。
「料理研究家じゃなきゃいけないの? レストランのシェフとかは?」
「うーん、ダメじゃないけど。そういう人って、昼間はお店があるでしょ? だから打診しても断られる可能性が高いと思うのよね」
「心当たりあるんだけど、連絡してみてもいい?」
私はガバッと彼へ向き直った。
「え……誰っ?」
「サミュエル・ベルナード。パリの星付きレストランで働いてて、何度も受賞歴あるし、知名度は問題ないんじゃないかな。ほら、飛鳥にも話したことあっただろう? シェフやってる友人っていうのが彼なんだ」