カボチャの馬車は、途中下車不可!?

そういえば、クルーズ船で食事した時……そんなこと言ってたっけ。

「今サム、東京にいるんだよね。シェルリーズの総料理長やってるんだけど」

「シェル……って、あなたが泊ってる、あの七つ星ホテルっ!?」

「そう。飲み友達でさ。平日の昼間でも、店はスタッフに任せて新メニューの開発とかしてる人だから。大丈夫だと思う」

「そ、そりゃ……あんな高級ホテルのシェフが来てくれたら……あっでも、まだプレゼンの段階なの。ボツになる可能性もあるから……」

「平気だよ。その時は僕が1杯、おごればいいだけだから」

「そ、そうなの?」

「じゃ、いいね。話してみる」
そう言うと、ジャケットの内ポケットから取り出したスマホで電話をかけ始めた。


「Bonsoir,Sam.It’s me! Ca va? ……Oui, ……Oui,tout va bien.…………」

え……ライアンってフランス語もできるのっ?

イントネーションとか発音とか。よくわからないけど……ネイティブと普通に話して、る……ような。

うん……話してる、気がする。
時折笑いを交えながら、ものすごくスムーズに。凹凸の少ない、流れるような美しい言葉が紡がれていく——


「飛鳥」
聞き惚れていると、急に名前を呼ばれて我に返った。

「君の仕事用のメールアドレス教えて」

し、仕事用? 仕事用……
アワアワしながら、もつれる指で名刺入れから1枚をつまみ出した。
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