新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「ふぅ……」
病院を出て一番に目に飛び込んできたのは紺色に染まった空と、人気のないバスロータリーだった。
視線を落とせば両手いっぱいの荷物と、しばらく新調していないスーツに、傷がついた古いパンプスがある。
──今、ここにあるものだけが私の全てだ。
今の私にはもう、これ以上の何かを持つことはできないだろう。
「……行かなきゃ」
ぽつりと呟くと、再び前を向いて歩き出した。
通い慣れた道を急げば、足元を生ぬるい風が駆け抜けた。
* * *
「うーーーーん……」
おばあちゃんと別れ、病院を出て、予定通り荷物を家に置いた私が向かったのは駅前の高級ホテルだった。
今晩、人と会う予定があると言ったのは、その場を誤魔化すための嘘ではなかった。
目の前には、きらびやかな装飾品。
ロイヤルの名に相応しく、地上72階建てのホテルは見上げるだけで首が痛くなりそうだ。
格式高いロビーには大きなシャンデリアや、高級感のあるソファー、大きなグランドピアノまで置かれていて、なんだか気後れしてしまった。
それなりにフォーマルな格好だし大丈夫だろうと思っていたものの、実際に来てみると自分がとんでもなく浮いて見える。