新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「近衛は俺の右腕とも呼べる秘書だから。さすがに彼に隠すのは気が引けるし、何より近衛は優秀過ぎて、隠したってすぐにバレる」
言いながら再び面白そうに笑った湊は、顎の下で長い指を組む。
「だから近衛の言うとおり、彼の前では俺との関係を隠そうとしなくていい。桜も社内で誰かひとりくらいは、気を抜いて話せる相手も必要だろう?」
そっと優しく目を細め、柔らかに笑う湊を前に胸が甘く高鳴った。
……つい先ほどまで、Lunaの代表取締役社長という顔をしていたのに、もう、私の知っている彼の顔だ。
イケナイとわかっていても胸が高鳴ってしまうのは、その二つの顔を持つ彼に、私がどうしようもなく惹かれているからなのだろう。
「……ありがとうございます。誰にもバレたらいけないと思っていたので……ひとりでも、事情を知ってくださる方がいると思うと、少しだけ肩の力が抜けました」
視線を落として胸に手を当てた私は、心臓を落ち着かせるように、一度だけ深く息を吐く。
「でも……私はここでは湊の妻ではなく、あくまでイチ社員として大好きなジュエリーと向き合いたいと思っているので、近衛さんもそのつもりで私と接してくださると嬉しいです」
ゆっくりと顔を上げて近衛さんを見つめると、彼はポーカーフェイスを崩して驚いたように片眉を持ち上げた。
私は静かに笑みを浮かべながら真っ直ぐに前を向き、姿勢を正してお腹にグッと力を込める。
──昨日も湊に言ったとおり、ここでは私はLunaの新入社員に過ぎないのだ。
湊の妻としてではなく、何も持たない駆け出しの人間として、今、ここに立っている。
Lunaでは誰よりも後輩で、だから今、湊の秘書である近衛さんが私に頭を下げることは間違っていると思うんだ。