新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
 

「もういい。とりあえず、桜を企画課まで案内してやってくれ。但し、俺のいないところで必要以上に、彼女に近づくなよ」

「わかりました」

「……ホントかよ」


訝しげに近衛さんを見る湊の視線と口調は、彼との間に仕事仲間以上のなにか、信頼関係があることを匂わせた。


「あと、桜もあまり固くならずに、なにか困ったことがあれば俺か……近衛を頼ってくれたらいいから」


と、ふたりを見ながら思わず考え込んでいると、小さく息を吐いた湊の視線が改めて私へ向けられる。


「ありがとうございます。でも……」

「ここでは確かに俺と桜は社長とイチ社員という関係かもしれないけれど、社長が社員をフォローしたって別に変じゃないだろう? ……というか、桜に頼られたいって俺の気持ちも、わかってくれたら嬉しい」


優しく細められた彼の目と目が合った瞬間、再び胸がトクリと鳴った。

……やっぱり、湊はズルイ。

そんなふうに言われたら、私は頷く以外の選択肢をなくしてしまう。


「それでは、花宮さん。企画課まで、案内いたします」

「……っ!」


けれど、いつの間にか後ろに立っていた近衛さんの言葉に、私は現実へと引き戻された。

振り向けば、寡黙な表情でドアノブに手をかける近衛さんがいる。

 
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