新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
 

「これ以上、花宮さんがここにいると、社長が仕事を放棄しそうなので」

「……おい、人を無責任な奴みたいに言うな」


冗談交じりに言った近衛さんを見ながら改めて姿勢を正せば、ゆっくりと重厚な扉が開かれた。

いよいよここから、新しい世界に踏み出せるのだ。

そう思うと今更になって酷く緊張し、右手は無意識に胸元の桜のチャームに伸びていた。


「──桜。自分らしく、堂々とやってこい」


けれど、そんな私の心情を見透かした声が背後から投げられた。

力強い言葉に弾かれたように振り向けば、やっぱりそこには優しく微笑む湊がいる。


「……ありがとう。いってきます」


彼を見たら、自然と笑みが零れた。

そうして私は再び背筋を伸ばすと、近衛さんに続いて社長室をあとにした。


* * *


「彼女が、今日からこちらに配属される花宮桜さんです」


社長室を出てエレベーターに乗り込んだ私は、近衛さんと一緒に七階にあるオフィスへと向かった。

真っ白な扉を開けて、しばらく歩いた先で足を止めた近衛さんは、根岸(ねぎし)さんという男の人を呼び止めた。


「今日から、こちらでお世話になります、花宮桜と申します!」


つい先ほど口にした言葉を同じように口にすると、真っ直ぐに前を向く。

すると、私と近衛さんの前に立っていた男の人が表情を明るくし、弾んだ声を響かせた。


「おー! 君があの、Cosmosの花宮さん⁉」


慌てて「はい!」と返事をすれば、彼は満足そうに私を見て微笑んだ。

湊が言っていた、私の運営しているネットショップがLunaでも話題に……という話は、有り難いことに本当だったらしい。

 
< 112 / 273 >

この作品をシェア

pagetop