新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「想像してた以上に若いなぁ。会えて嬉しいよ。俺は企画課チーフの根岸です。これから一応、君の上司になる者です、よろしく」
根岸さんはそう言って、私の前に大きな手を差し出した。
その手を掴んで再度「ありがとうございます! よろしくお願いします!」と叫べば、根岸さんは面白そうに笑ってみせる。
「イイネ。元気でよろしい」
年は……湊のひとつか、ふたつ、上くらいだろうか。
背は私よりも頭一つ分ほど高い。
笑うと目尻にできるシワが印象的で、白いシャツにカジュアルなダークブラウンのジャケットを羽織った彼は、短く切り揃えられた黒髪がとてもよく似合う男の人だった。
「それでは私はこれで、持ち場に戻らせていただきます。細かい業務内容などの詳細は、彼……根岸から説明を受けてください」
と、斜め後ろに控えていた近衛さんに声をかけられて、私は慌てて回れ右をする。
「あ……! はい、ありがとうございました! みな……如月社長にも、どうぞよろしくお伝えください!」
危ない。早速"湊"と、口を滑らせそうになった。
案内を終え、その場から去ろうとする近衛さんへと頭を下げれば、近衛さんは表情一つ変えずに踵を返した。
そのまま一度も振り返ることなく企画課をあとにする。
「近衛さんが、君をスカウトしに行ったの?」
「え……?」
「驚いただろ。あの人、いつもあんな感じで笑ったところは見たことないし、綺麗な顔してんのに勿体無いよな」
不意にそんなことを言った根岸さんへと改めて向き直れば、彼はイタズラに笑ってみせた。
……近衛さんの笑ったところは見たことがない?
ということは、私が先ほど社長室で見た笑顔は、相当貴重なものだったということだろうか。