新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「とりあえず、目下、新企画の案出しから始めよう。早速だけど、花宮も参加してくれ」
「は、はい……!」
パンパンと手を叩いた根岸さんにつられて、私は打ち合わせスペースへと腰掛けた。
未だに心臓は踊るように高鳴っていて、少しも落ち着いてくれそうにない。
「あまり時間もない案件だ。来週末には社長に企画を提出しなきゃなんないから、みんな改めて気を引き締めるようにー」
根岸さんの口から出た、"社長"という言葉にドキリとした。
──ここでは夫である湊も、私の上司の一人なのだ。
「社長は見た目はジュエリー同様に華やかだけど、仕事に関しては華やかさだけじゃ納得してくれない完璧主義者だぞー」
「それな」
「マジそれっス」
「間違いないなぁ」
「ふふ……っ」
この会話を聞いたら、湊はどんな顔をするだろう。
そう思ったらなんだか少し面白くなって、思わず顔が綻んだ。
みんなで大きなデスクを囲んで、新しいジュエリーを生み出すため、それぞれにアイデアを出し合っていく。
ようやく立てた、夢の場所。
私は胸元で光る桜のチャームに手を添えると、真っ直ぐに顔を上げた。
……頑張ろう。
心の中でそう唱えれば、何故だか不思議と頭の中には『頑張れ』と笑う、湊の綺麗な顔が浮かんだ。
* * *
「それでね、根岸さんもナスさんもカブくんも、サツマちゃんも本当に凄いの!」
その日、定時上がりで仕事を終えた私は予定通り、おばあちゃんが入院する病院に立ち寄った。
湊が探してくれた新しい病院は、私たちの新居の最寄り駅から徒歩五分ほどの場所にある。
以前の病院は駅から少し離れた場所にあったので、バスを使わなければならなかった。
それに比べると今のところは随分と通いやすく、面会時間ギリギリまでいても帰りの心配をする必要がない。
「新しい企画の案も、いくつか考えてみてって言われて。過去の資料とか、みんなの意見とかも聞いて、本当にすごく勉強になるよ」
初出勤の興奮さめやらぬまま話し続ける私の手に、おばあちゃんの温かい手が重なった。
「本当に、良かったわね。桜ちゃんの嬉しい話を聞けて、おばあちゃん、とっても嬉しいわ。でも……そろそろ、帰らなきゃ」
「あ……」
言われて改めて時計を見たら、時刻は丁度、十九時を過ぎたところだった。
「あなたは新婚さんなんだから。その生活も、何より如月さんのことも大事にしなきゃダメよ」
おばあちゃんの言うとおりだ。
いくら面会時間ギリギリまでいられるからと言っても、湊に迷惑を掛けるようなことがあってはいけない。
ましてや湊は立場上、私よりもよっぽど重圧が大きいのだから、プライベートでも妻としての役目を果たさないとダメだ。
夕飯だって、本当なら作って待っているくらいじゃないと。
今の今まで呑気にしていたけれど、おばあちゃんのことも仕事のことも、湊のことも……大事にすると決めたばかりだ。