新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
 

「あ、あの、夕ご飯、今から作ろうと……」

「夕飯はカレーにしてみた」


お互いの声が重なった。

ハッとして動きを止めた私とは裏腹に、湊はやっぱり穏やかに微笑んでみせる。


「……料理とか、初めてで。味はあんまり自信ないけど、一応、近衛にも相談したら便利な料理のサイトと、あと、カレーなら余程の料理音痴でなければ失敗しないって言われてさ」


その言葉に我に帰って改めてキッチンを見てみると、調理台の片隅に湊の携帯電話が置かれていた。

……多分、言葉の通り、それで手順を確認しながら作ったのだろう。

カレーとはいえ、一度も料理をしたことのない人にとっては大冒険だったはずだ。


「桜は初出勤で疲れてると思ったし、これくらいのことはできないと、今後、桜に負担ばかりかけることになるだろ?」

「湊……」

「風呂は桜が洗ってくれてあったし。今後はもっと家事も協力するから、できることがあれば言って」

「……っ」


気がついたら鞄を床に落として、駆け出していた。

そしてそのまま湊にギュッと抱きついて、彼の身体に頬を寄せる。


「なんで、そんなこと……っ。それは……家事は妻の私がやるべきことだし、湊のほうが仕事で疲れてるはずなのに……」


情けなくて泣きそうだ。

あのLunaの社長である湊にこんなことをさせるなんて、彼の妻、失格だと思う。


「ごめんなさい、私……全然、ちゃんとできなくて……っ」


湊の身体に頬を寄せたまま、顔を上げることができない。

今、彼の顔を見たら泣いてしまいそうで、本当にダメな自分が自分で嫌になる。


「なんで、謝るんだよ。それに、なんで夕飯作りが妻の仕事って話になる?」


けれど、そんな私の胸のうちも全て見透かしたような湊の手が、私の髪を優しく撫でた。

 
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