新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「……桜ちゃん、どうしたの?」
「え……あ、」
ぼんやりと、懐かしい記憶に想いを馳せていた私はおばあちゃんの声で我に返った。
顔を上げると心配そうに私の顔を覗き込むおばあちゃんがいて、慌てて「なんでもないよ」と笑顔を作る。
「そういえば今日、課長がね。出張のお土産にってお菓子をみんなに配ってくれたんだけど、それが全然美味しくなくて……」
「あら、そうなの? それはちょっと、おばあちゃんも食べてみたかったな」
「えー、それなら一個、貰ってくればよかった。もう本当に人気なくて、パートさんと“どうする?”って、すごく悩んだもん」
おばあちゃんの下着の替えを指定されている場所に詰め替えながら、他愛もない話をすると、再びおばあちゃんの顔が綻んだ。
観光地のお土産物や、結婚式の引き出物を取り扱う中小企業に勤めて、早五年。
出社は朝の八時、定時は十七時という会社で、私は一般事務をしていた。
営業部の人たちに頼まれた領収書の整理や見積作成。お客様が来たときのお茶出しや、会議用書類の用意。必要品の注文や在庫確認、雑用まで。
やっていることは私でなくともできることばかりだから、やり甲斐があるかと聞かれれば、「ない」と答えてしまうだろう。
だけど今の私にとっては、そんなことは二の次、三の次だ。