龍使いの歌姫 ~神龍の章~
ティアはここに来て間もない頃、アルが苦手だった。

レインに対して冷たい感じがしたので、レインをいじめる嫌な人というイメージが根付いていた。

勿論、アルが悪人だなんて思っていなかったが、何となく苦手だった。

だが、ティアが龍の谷の池に落ちた時や、迷子になった時、アルがティアを助けてくれた。

ぶっきらぼうだが、ティアの頭を乱暴に撫で、「レインを心配させるな」と言った。

だから、アルはアルなりに、レインを大切にしてくれていて、自分のことも大切にしようとしてくれているんだと分かった。

ティアを育てた父と母が、ティアは大好きだ。

特にレインは、卵の時から知っていたような気がする。

だから、生まれて初めて見たはずのレインの顔が、懐かしいと思った。

『?……ティアは、レインを見たことがあったの?』

『?どうしたんだ?』

心の中で呟いたつもりが、声に出していた。

『ティア。レインの顔、生まれる前から知ってた気がするの。レインを初めて見た時、懐かしくなったの』

一体、どういうことなんだろうか?

『……ティアよ』

『?おじじ様?』

首を傾げるティアを、長老は悲しげに見る。

『お主とレインが出会ったのは、偶然ではなく必然じゃ。レインはお主を育てることが決まっておった』

『どういうことなの?』

『爺さんの言葉は、いちいち難しいんだよ』

ゼイルとティアが長老を見上げると、長老は視線を反らした。

『……もうすぐ、分かることじゃ。ティア、お主の親のこともな』

『?』

長老の言葉はやはり良く分からなず、ティアは困惑するしかなかった。

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