龍使いの歌姫 ~神龍の章~
(私は…………誰?)

尋ねる声に答えるように、頭の中に映像が浮かんだ。

『また双子が生まれたそうだな。今度は姉妹か』

これは、誰の声だろうか?

『双子じゃと?……いらぬ。双子などわらわはいらぬ!!』

女の悲痛な声には、とても聞き覚えがあった。

『お主は、龍王の子じゃな。……そうか、エレインか。良い名じゃの』

四年前、夢の中で聞いた声と同じ声が、頭の中に響く。

『エレイン、約束をしておくれ。お主はいつか―』

(………そう。……私、約束したんだ……あなたを……)

自分が誰なのか、レインは思い出した。

(私の名前は、エレイン。この国の王女セレーナの、双子の妹……)

手を伸ばすと、意識が浮上する。


「…………」

目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。

「………っ」

涙が浮き出て、そのまま頬を伝ってすべり落ちる。

「私っ……どう……して……」

何故忘れていたのだろう?確かにこの城で育ってきたというのに。

セレーナのことも、母同然に慕っていた神龍のことも、竜騎士のことも忘れていた。

「ティアナ姉さん………いえ、ティアニカ。私の世話係だった、サザリナの弟子。そして、師匠だと思っていたあの人は、幻惑の魔法使い」

龍王を支え、幻覚魔法を使って、相手の恐怖心を和らげ断罪を下す存在。

二人とも、レインは良く知っていた。

レオンはほとんど城にいなかったので、あまり接点は無かったが。

「……どうして二人は、黙っていたの?」

レインの頭の中はぐちゃぐちゃだった。訳が分からなくて、今まで夢でも見ていたんじゃないかと思うくらいに混乱している。

「うっ………うぅ………ひっく………」

しゃくりがあがり、息が上手く出来なくなる。両手で顔を覆っていないと、声を上げてしまいそうだった。

「……姫様」

控えめな声が聞こえ、レインは手の隙間から、声の主を見る。

いつの間にか入ってきた竜騎士が、心配そうにこちらを見ていた。

「…………ロラン」
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