龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「………はい。エレイン様」

レインは涙を流したまま、起き上がって竜騎士―ロランを見る。

「………私、貴方のことも忘れていたわ」

レインの口調は大人びたものへと変わり、落ち着いた声を出している。

幼い頃の彼女の喋り方だ。

「それは、私もです。……今までの無礼、どうかお許しください」

ロランはレインへとひざまずいた。

「許しをこうのは、私の方。貴方を、神龍様を、セレーナを忘れていた私なのです」

「………」

ロランは無言で首を振った。

「この城の者達は、全員記憶を封じられていました。そんな事が出来るのは、ただ一人だけです」

「………幻惑の魔法使い。レオンね」

レインの言葉に、ロランは頷く。

「何故、彼がそんな事を……」

「奴の考えは、誰にも分かりません。一体何が目的なのか」

レインは目を伏せる。

自分を育てたティアナとレオンが、悪い人間ではないことは、城にいた時から知っている。

二人とも、とても愛情深く暖かい存在だった。

だからこそ、余計に悲しくなった。

「……ここに私を連れてきたのは、貴方ね?」

「はい」

ロランは記憶を取り戻すと、すぐ城の地下へと向かった。

普段は、龍王家の者かサザリナしか開けることが出来ない、神龍の間の扉が開いていたので、中に入ることが出来たのだ。

そして、そこで結界の外で倒れていたレインと、サザリナを見付けた。

神龍はロランを見ても、何の反応も示さなかったが。

ロランはレインの方を抱え上げ、急いでレインをこの部屋に運んだ。

「……セレーナは?」

「どうやら、私と同じくエレイン様のことを思い出したらしいのですが、その影響か気を失っておられます」

「そう……分かったわ。ありがとう………もう、下がりなさい。暫く……誰も近付けないで」

ロランは頭を下げると、部屋から出ていく。

すると、またレインの瞳からポロポロと涙が流れ落ちた。

レインはベットから降りると、部屋に備え付けられている鏡の前に立つ。

そこに写っているのは、真っ白な髪と赤い瞳の女性。

「………私は……何なの?」

自分はエレインなのか、それともレインなのか。どちらが正しい姿なのか分からなくなる。

「うぅ…………っ…………うぁっ……」

鏡をそれ以上見れなくなったレインは、ベットへと体を押し付け、声を殺して泣いた。

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