龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「……明後日で、私は十九才になる。そしたら、師匠と過ごしたあの場所へ行こうと思うんだ」

「………」

ティアはレインとアルを囲むように丸まりながら、二人の話を聞いていた。

「アルも、一緒に来てくれる?」

「……お前がどうしてもって言うならな」

「どうしても、来てほしいな!」

レインは、アルと過ごすうちに、何となくアルのことが分かってきた。

アルは、約束したことは破らないということ。ぶっきらぼうな態度の中に、優しさがあること。

だから、レインはアルを信じている。レインにとっては恐らく、友人らしい友人と言える存在だろう。

「……仕方ないから、一緒に行ってやる」

「ありがとう!」

笑ってお礼を言うと、アルは少しだけ口端を上げた。

『アル、笑ったの!』

「笑ってない」

『絶対笑ってたの!ティアは見たの!』

「だから、笑ってない!」

ティアとアルは、笑ったか笑ってないかで議論を始めてしまい、レインはそんなやり取りを苦笑いしながら見ていた。

(師匠。貴方は、何を考えていたんですか?)

ふと、レオンの顔を思い出す。そして、レオンの言葉も。

(貴方は私に、貴方のことを何一つ教えてくれませんでしたね)

例えレオンの過去に何かあって、それを隠していたとしても、レインはレオンを責めたりなどしない。

レオンが何者でも、共に過ごしたレオンの姿は、レインにとっては本物だ。

だから、レオンを軽蔑したりなどしない。それは、ティアナにも言えることだった。

もし、ティアナが魔女だと早く知っていても、きっとレインは受け入れられた。

(姉さんが魔女だったなら、私は何なんだろう?)

レインはまだ、自分がティアナと血の繋がりがないことを知らない。

(私は魔女なのかな?それとも人間なのかな?)

姉のように魔法など使えない。ただの人間だとは思う。

(………私は、誰?)

その質問の答えなど、出る筈もなく、レインは空を見上げていた。
< 6 / 76 >

この作品をシェア

pagetop