オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「なにが?」
「今、構ってる子。一緒にいると楽しいんだよ」
「おまえ、いつも楽しそうじゃん。自分に夢中にさせる過程が楽しいってことだろ?」
「そうなんだけど、そうじゃなくて」
友里ちゃんと一緒のときは、彼女の歩幅に合わせて二十分はかかるのに、今日は十五分もかからずに駅に着いた。
こことは駅を挟んで反対側にある居酒屋に行くために、構内へ入る。今日は北岡の誘いで、そこで飲む予定だった。
人通りが多く、いちいち避けながらの歩行は結構なストレスだった。
「今までは、振り向かせるっていう目的が目の前にあったから楽しかったんだよ。でも今は違う。会うたびに〝好きじゃない〟って言われてるし、正直見込みなんて今のところゼロなのに楽しい」
「ただ、珍しいだけだろ。自分になびかない子が。いちいちステップ踏まされてる状況っていうのが、攻略難度あげてて楽しいだけなんじゃねーの。ラスボス感があって。
そういや、先月出たRPG、俺ようやくラスボスの城まで行ったんだよ。長かったわー」
俺の話なんて真剣に聞く気がない様子の北岡が、ポケットから取り出したスマホに視線を落とす。
ステップだとか攻略難度だとか。今言われたことを頭のなかで反芻し、そうかもしれないとも思うものの、でもどこか腑に落ちないまま人の多い構内を抜ける。
いつも使っている東口はオフィス街のイメージが強いけれど、反対側に出るだけで印象はガラッと変わる。
西口前は、居酒屋や飲食店が並び、店内から溢れ出る明かりが眩しいほどだった。
「どこで飲むんだっけ」
西口には、使う店がいくつかある。だから確認すると、北岡は「紬屋」と答えたあとでバツの悪そうな笑みを向けた。
せっかく整えたキリッとした眉尻が情けなく下がっている。