オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「でさ、松浦には言ってなかったんだけど、今日はふたりじゃないんだ」
「へぇ。別にいいけど。なに、会社のやつ?」
部署間は仕事やら予算の関係で割とギスギスしている。酒の席でもなければ他部署の人間と話す機会も、腹を割る機会もあまりない。
けれど、仕事を進めていく上で、他部署のことを知っておくのは役に立つ。現場に近い部署であればあるほどいい。
だから、そんな機会が今日持てるならと喜んで返すと、北岡は尚もうろたえたような笑みで言う。
「いやー……それが、他の会社っていうか」
「他の? 仕事関係?」
「いや、全然。むしろ仕事の話なんかできなそうな……女の子」
ピタリと足を止めた俺に、北岡は焦った様子で身振り手振りで説明する。
「騙して悪かった! でも松浦、本当のこと言ったら絶対来ないじゃん。だけど、相手の子は松浦に会いたいっていうしさー。俺だって板挟みだったんだって。
ちょっと顔出してくれればそれでいいから! 頼む!」
必死で頼み込む北岡に、小さくため息をつく。
「相手はなんで俺のこと知ってんの?」
「夏に同期で集まったじゃん。この間、そん時の写真見せて、それで……あ、でもおまえが喜びそうな相手もいるから!」
「そもそも俺目当てで飲み会にくるって時点で興味が……」
「ほらおまえ、調合部とかそのへんと繋がり欲しいって言ってたじゃん。さすがに調合部ではないけど、今日一緒に来るひとは割とオールラウンダーで現場の経験もある」
〝調合部〟や〝現場の経験〟という単語に「へぇ……」と声をもらすと、北岡が畳みかけるように続ける。