オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
友里ちゃんに対しては、〝この俺に対して?〟のような驕りはない。初対面のときにスパッと切り落とされたから、彼女が俺にこれっぽっちの興味も好意も持っていないのは百も承知だ。
だからあの時驚いたのは、こんな強情っぽくて無愛想な子が、特定の男にはここまで特別な顔を見せるのかということだった。
本人はどう思っているのか不明だが、友里ちゃんは案外わかりやすい。よく笑ってよく怒るといったような分かりやすさではないけれど、無表情にも種類があって、それは注意深く見ていればすぐにわかる。
〝ああ、今のおいしかったのか〟〝少し機嫌損ねたな〟
決して素直じゃない友里ちゃんの、わずかな表情の違いを見つけるのは楽しかった。
かと思えば、俺を待ち伏せしてまでして謝ってきたり。
あの程度の言い合いだったら流すのが普通だ。時間を空けて会ったときにはお互いスルーして、それこそ、まるでなかったことみたいに接する。
深追いする必要もないし、表面上の関係ならそれで充分。
なのに、誰より〝表面上の関係で充分〟だと思っているような冷めた見た目をした友里ちゃんがきちんと謝ってきたのは意外でしかなかった。
付きまとって迷惑をかけている自覚はある。そんな俺に対して、バツが悪そうにしながらも誠意を見せてくれる友里ちゃんに、気付けば笑ってしまっていた。
なんて不器用で……純粋ないい子だろう、と。
「智夏ちゃんって、あの子に似てない? ビールの売り子からグラビアデビューしてた可愛い子」
「えー、本当ですか? 嬉しい」
どうやら北岡の狙いは、隣に座る〝智夏ちゃん〟らしい。
「似てるよな? 松浦」と話を振られ、適当にうなずいておく。