オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「え、本当ですか? 優しい。ありがとうございます」

ふたりのやりとりを聞いていて、ビールが苦手な子も結構多いのかもしれないな、と考える。

同時に、友里ちゃんもたぶん、仕事関係の飲み会では無理して一杯目はビールを頼むんだろうと簡単に想像がつき、ひとり笑みをこぼした。

きっと、こちらが気を遣って〝代わりに飲むよ〟と言っても〝嫌いなだけです。私だってこれくらい飲めますから〟と意地を張った答えが返ってくるんだろう。

素直に甘えることができないあの子らしい。

こんな風に、見るもの聞くものすべてを友里ちゃんに繋げてしまうのは、ここに加賀谷さんがいるせいだろうか。

何気なく視線を向ければ、さっき瞳の色がどうのと話していた子と仲良さそうに笑っていた。

派手な化粧をして、やたらと甘えた声を出すような、男に媚びるのが上手なああいう子がタイプなのか。

どこか納得できない思いを噛み殺していると、不意に視線がぶつかる。

加賀谷さんは目を逸らすことなく、「松浦くんとは、きちんと話すのは初めてだな」と、今まで隣の子に向けていたものと寸分違わない笑顔を浮かべた。

たしか、加賀谷さんとは歳は同じか俺のほうがひとつ上だ。けれど、入社年数的には加賀谷さんは俺の先輩にあたることを頭のなかで確認してから口を開いた。

「そうですね。仕事では、ほとんど関わりないですからね」
「でも、松浦くんの噂は聞いてる。今、研究室が取りかかってるコーヒーは松浦くんの案なんだろ?」

「まぁ……でも、他社製品がとっくに出回ってますし、これから試作して機材揃えなきゃだし完全に出遅れてますけど」

社外の人間が同席している以上、あまり詳しいことも言えずにそれだけ返すと、仕事の話題にもう黙っていられなくなったのか、加賀谷さんの隣の子が「難しい話はそのへんにしません?」と割り込んでくる。



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