オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「っていうか、松浦さんも加賀谷さんも、すごい鍛えてますよね。腕とか太くてドキドキします。
触ってもいいですか?」
じっと、ねっとりとした眼差しを向けられ、すぐに笑顔を作った。
「ダメ。俺、結構潔癖症だから他人に触られるの苦手なんだよ」
そこまで潔癖症でもないけれど、他人にベタベタ触られるのが嫌いなのは本当だった。
「ごめんね」と謝ると、その子は「えー、残念」とわざとらしく眉を寄せたあと、加賀谷さんにターゲットを変える。
「じゃあ、加賀谷さんは触らせてくれます?」
ぐいぐいくる女の子に、加賀谷さんは少し困った顔をしながらも「いいよ」と許可を出す。
たぶん、断るのが苦手なひとなんだろう。仕事も多く抱えることになって負担が増える一方だと友里ちゃんが心配そうに話していたし。
今日だって、北岡に頼み込まれて仕方なくって話だ。
だから決して、喜んで触られているわけではないのに……キャッキャ言いながら腕を触る子も、戸惑いながらも触らせる加賀谷さんにも苛立ちを感じずにはいられなかった。
きっと友里ちゃんだったら。
どんなに触れたくても触れて欲しくても声に出せないで、ぐっと我慢することを知っていたから。
――そんな、誰とも知らない女に簡単に触らせるなよ。
友里ちゃんは、手を伸ばしたくたって我慢して、ただの同僚としての距離を保とうと必死なのに。
その距離を、本当はぶち壊したいのに、それでもアンタに気を遣わせないようにって耐えているのに。
「――篠原友里って加賀谷さんの部署にいるでしょ。あの子、可愛いですよね」
こういう席で、他の女の子の話題はタブーだ。それを理解していても止められなかった。
案の定、他の子からは「えー、誰?」と不満の声が上がるなか、加賀谷さんは目を見開いて俺を見ていた。
頬杖をつき、わざと口の端を上げて続ける。