オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「さっき、噂を鵜呑みしているのかって松浦さんは笑いましたけど。私は、あそこまで広まりきっている噂全部が嘘だとは思えません」
火のないところになんとやらだ。
視線をゆっくりと動かし、隣に立つ松浦さんを観察するようにじっと見る。
水槽からの淡い光を受けた顔は、私と目が合うなり綺麗な笑みを浮かべた。
背が高いせいでなんとなくひょろっとして見えた体型は、こうして並んでみると意外としっかりとしていて、きちんとした〝男性〟だった。身体の厚みが全然違う。
「そうかもね。まぁ……誤魔化すつもりもないから俺も本音で話すけど」
そう前置きした松浦さんが、目を細める。
「他人のものとるのって楽しいんだよね。優越感が手っ取り早く得られるし、俺が一番だって証明されてるみたいで気持ちがいい」
目を奪うような魅力的な笑みで、耳を疑いたくなるような最低な発言をした松浦さんは「だから、飲み会で俺にほいほいついてくるような子は最初からタイプじゃない」と続けた。
「……噂、事実じゃないですか」
あまりにひどい恋愛観に圧倒され、わずかに間を空けてから言うと、松浦さんはちっとも悪びれた様子を見せずに笑顔で続ける。
「そこそこね。多少は尾びれついてるよ。まぁ、そんなわけだから、正直その子自身には興味ないんだよ。他の男に夢中になってる子を振り向かせるっていうところまでが楽しいだけだから。その子が、俺の方がいいってなった時点で終了」
「三十歳を目前にした男性がするような恋愛にはとても思えないんですが……頭大丈夫ですか?」
嫌悪感たっぷり、ついでに嫌味もたっぷり込めて言うと、松浦さんは「あれ。俺のこと少しは知っててくれてるんだ」と嬉しそうにする。
結構ストレートな嫌味だったのにスルーされて、しかもこんな嬉しそうな笑みを浮かべられてしまい、ペースを崩し目を逸らした。