オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「名簿に載っていたのを覚えていただけです。明日になれば忘れます」
「わざわざ俺のところ、読んでくれたんだ」
「探すまでもなく、入社年数で目立っていただけです。……あの、なに言われても絶対無理なので、やめてもらえます?」
「なにを?」
キョトンとした目で聞かれ、「だから……」と口をもごもご動かした。
やっぱりこの人は苦手だ。
なにを言っても、本心なんだかどうだかわからない適当な言葉と笑みで交わされているようで、ペースが崩される。
「私に気があるような態度をするのを、です。さっきから、私がちょっと松浦さんのことを知っていたからって喜んだ顔したり……そういうの、演技なんでしょうけど、まるで私が期待させているようでもやもやしてすごく気持ち悪い……」
「だって嬉しいから」
綺麗な笑顔で告げられる。
遮られた言葉に一瞬言葉を失ってから「だからそれを……っ」と声を張り上げたところでハッとして口をつぐむ。
静かな館内に響いてしまった声に、バツの悪さを感じながら眉を寄せた。
「……もういいです」
水族館で大声を出してしまうなんてどうかしてる。
それもこれも全部松浦さんのふざけた態度のせいだ、と責任を押し付け、気持ちを落ち着かせるようにひとつ息を逃がした。
「とにかく、松浦さんがなにを言ったところで、私は松浦さんを好きにはなりませんし迷惑でしかないんです。それ以前の、そんな最低な恋愛観知った上でターゲットにされていい返事をするわけがないじゃないですか」
一呼吸で言ったあと「何度でも言いますけど、最低ですよ」と念押しすると、軽蔑しているのが伝わるような顔をしたのにも関わらず、松浦さんはケラケラと笑う。
「よく言われる。でもさ、俺を夢中にさせられない女の子にも問題があるとも思わない? 俺が構ってる間に俺を本気にさせればいい話だし」
「勝手な理屈ですね」