オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「それって相当な美人じゃなきゃダメってこと? 篠原でダメって理想高すぎると思うんだけど」
「別に、そんなこと……」
「あるよ。篠原が〝私なんか〟とか口走ったら炎上するレベル」

〝そんなことない〟って思ったのは本当だけど、工藤さんにこう言われた以上、うかつになにも言えなくなり、なんだか不完全燃焼のままカップのカフェオレに口をつけた。

工藤さんが言ってくれた通り、容姿だけで言えばたしかに恵まれたほうなのかもしれない。
わずかに吊り上った二重の目に、薄い唇。ハニーブラウン色に染めた髪には緩いウェーブがかかっていて、長さは胸ほど。前髪は眉の長さで寒い風に揺れている。

父親が未だに〝可愛いなぁ〟とベタ褒めする母親に似たおかげで言い寄られることはあるけれど、それもせいぜい初対面時限定だ。

この冷めた性格を知った上でアプローチしてくるひとは少ない。
どんなに勢いよく口説いてきても、そのテンションが続くのはせいぜい、会話し出して三十分までで、たいていのひとはすぐに引いていく。

『楽しい顔ひとつできねーの?』とか『血、通ってないんじゃないの』と、捨て台詞をはかれることも多々あった。

逆に、時たま『その冷めた目たまらない……!』とおかしな趣向の持ち主が現れたりもするけれど。

もちろん、どちらのタイプとも付き合うまでには至らなかった。好みうんぬんではなくて……私は、加賀谷さんが好きだから。


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