オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「とても優しいひとなんです。だから、からかうようなことはやめてください」
カフェオレの入ったカップを両手で包みながら言うと、工藤さんはなにか言いたげにしながらも、それをため息で逃し「はいはい」と呆れたような声だけ返した。
加賀谷さんというのは、私や工藤さんと同じく第二品質管理部にいる社員のひとりだ。年齢は私の四歳上で、入社年数的にも同じ。
加賀谷さんも私も、そして工藤さんも高卒で入社しているため、加賀谷さんが八年目の二十六歳、私が四年目の二十二歳、工藤さんが六年目の二十四歳となる。
私が新入社員研修を終えると同時に第二品質管理部に配属されたときには、他のふたりは既にそこにいたため、付き合いは四年以上になる。
和気あいあいするのが苦手な性格上、仕事仲間とはあくまでも仕事仲間としてだけ付き合いたいと思っていたのだけれど、工藤さんだけは別だ。
表情が乏しい部分だったりテンションの低さだったり、常に一歩引いたところから眺めている部分だったり。似ているところが多いからか、自然と打ち解けていき今では恋愛相談までできる仲にまで進展していた。
工藤さんが、私の片想いを知る唯一の人物だ。
ぎゃぁああ、と言う叫び声が響くなか、工藤さんが空になったカップをコトンとテーブルに置く。
「どうせなら水族館でも回らない? 静かそうだし寒さもしのげるでしょ」
「そうですね。ここってイルカいるんでしたっけ」
「イルカってどこにでもいるんじゃないの? イルカ好き?」
やたらと重たい鉄製の椅子をテーブルの下に押し込みながら「好きです」と答える。