オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「特には。あ、でもナスが少し苦手ですね」
「ナス……苦手要素ある?」
「歯ごたえのなさっていうか、野菜なのにふにゃんってするのがなんだか気持ち悪くて」
松浦さんは、どうでもいい雑談をして笑いながら店員さんを呼び注文を済ませる。
飲み物だけ希望を聞かれたから、お店のおススメだというキウイサワーを頼むと、松浦さんはビールの中ジョッキを選んだ。
松浦さんとこうしてふたりきりでご飯を食べるのは初めてだ。
この人は頭は悪くなさそうだから、同じ会社の人相手に強引なことはしないだろうけれど、念のため、アルコールは一杯だけにしておこうと決める。
すぐにアルコールと、トマトとモッツァレラチーズのサラダ、レンコンのきんぴらが運ばれてきたから、とりあえず乾杯をしたところで、松浦さんが「で? 心がどうのっていうのは?」と聞いてくる。
〝話を聞く〟なんていうのは、ただの誘い文句かもしれないとも思っていただけに、きちんと相談に乗ってくれる気はあるのか、と少しだけ見直す。
穏やかな雰囲気の店内には、他の席からの話し声がうるさくない程度の雑音となって聞こえていた。
「たいしたことではないんですけど」と前置きしてから、まず、尾崎さんのことから説明する。
尾崎さんが今、どんな状態なのか。その原因。部長が加賀谷さんを連れだって尾崎さんの部屋に足を運んでいること。
主観が入らないように事実を並べてから……小さく息を吐いた。
「精神的なものからくる症状は、病院に通ったり休職したからといって治るものでもないし、尾崎さんはきっと不安で仕方ないと思います。先が見えないから。
だから、そんなとき、加賀谷さんみたいな人が気持ちに寄り添って励ましてくれたら、きっと少なからず救われると思うんです」
キウイサワーの入った、背の高いグラスをいじりながらぐっと黙ると、それまで相づちだけ打って聞いていた松浦さんが「〝なのにやきもち焼いちゃう私って心が狭い〟ってなったわけだ」と言い当てるから、うなずいた。