オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「加賀谷さんは仕事として尾崎さんの部屋に行っているんだし、尾崎さんが今、心細かったり不安だったりでツラい思いをしているのだって想像できるんです。なのに私は、そこにつまらない私情を挟んで考えることしかできない」
一泊空けてから「本当に嫌になります」と自己嫌悪の念をたっぷり込めて呟く。
「たぶんこの感情って〝仕事と私どっちが大事なの?〟的なことと近い気がして、それがまた嫌で」
そんな聞き分けないことなんて言いたくないのに、心のなかに渦巻いている感情は面倒くさい女そのものだ。
どろどろした醜い想いが自分でも嫌なのに追い出せない。
違う個室からの話し声や、店内に控えめに流れているBGM。それらが丁度いい雑音となり、とても話しやすい雰囲気を作っていた。
グラスの表面に浮いた水滴を指先でなぞり、指へと流れ移ってきたそれを眺めながら続ける。
「松浦さんなんて、一番嫌いそうじゃないですか。そういう面倒くさいこと言ってくる子」
昨日のお昼休みに麻生くんとしていた会話を思い出す限り、結構辛辣な返しをしそうだと思って言うと、松浦さんは「んー……まぁね」と苦笑いを浮かべた。
「そもそも俺は、真面目に付き合ったことがないから、仕事と比べるっていう感情がわからないし、なんとも言えないけど……」
松浦さんは、サラダを小皿に取り分けながら続ける。
「もしも、付き合っている子がいたとして、そんなこと言われたらその瞬間別れるかもね。これから事あるごとに〝どっちが大事なの?〟って責められるのが容易に想像つくし、そんなこと聞いてくる子は常に〝自分が一番じゃなきゃ嫌だ〟って考えだろうし。
……一番なんて、努力もなしにもらえるもんでもないのに当然に要求されてもね」
最後の一言だけそれまでのトーンとは違う重さに感じた。
だからじっと見ていると、松浦さんはニコッと笑顔を浮かべ続ける。
「そういう部分にいちいち付き合うのは面倒くさいし、そのたび機嫌とるのは時間の無駄としか思えない」
私の前にサラダの入った小皿を置いて話す松浦さんをしばらく眺めてから、ふっと笑みをこぼす。
それに気付いた松浦さんが「どうかした?」と聞いてくるから、割り箸を割りながら答えた。