オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「ひとの話を聞いてくれるとか、ひとの会話がわかるとか言われてるじゃないですか。だから、見ているだけで気持ちをくみ取ってくれてるみたいで落ち着きますし……あとあのフォルムも好きですね」
「ああ、なんかぬるんってしてるよね。うなぎ的要素がある感じ」
「ぬるんって……言い方……」
ふたりして空になったカップを途中のゴミ箱に捨て、水族館に向かう。
今日の社員旅行は、バス代もお昼のバーベキュー代も、そして水族館も組合持ちだ。唯一、遊園地だけは実費だというけれど、社員の大半は自腹をきって遊園地を楽しんでいるらしかった。
私たちが配属されている本部には二百人近い社員がいて、今回の旅行に参加したのは六十人弱。ほとんどが入社数年目の若い社員だった。
入社して八年が経っているのに参加している社員は加賀谷さんくらいだ。後輩に〝加賀谷さんいないと盛りあがんないっすよー〟と頼まれて出席を決めたという。
仕事だってひと一倍忙しいのに休日まで会社の行事に付き合うなんて、まったく世話焼きのお人よしだな、とこっそり笑みをこぼし、そういえば……と隣を歩く工藤さんを見た。
「松浦さんも今回参加しているんですね」
社員旅行参加予定者の用紙には、名前と入社年数、そして仲良くなるきっかけにと気を利かせた組合により、趣味を書く欄が設けてあった。
参加者が決定したあと、全員にプリントされたそれのなかで注目を集めたのはふたり。
加賀谷さんと松浦さんだ。
〝参加してくれるんすか! やった!〟と、その人柄の良さから男女問わず、もっと言えば年齢も問わず喜ばれた加賀谷さんと。
モデルのような甘い顔立ちと軽い性格から〝当日、絶対に一緒に回りましょうね?〟と、主に女性社員に喜ばれた松浦さん。
用紙に書かれた松浦さん情報によれば入社して七年目。つまり、大卒なら二十九歳。
見た目よりも年齢はいっているんだなぁと感想を持ったからよく覚えていた。
たしか、趣味は料理だったっけ……と考えていると、工藤さんが「らしいね」と答える。