オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「別のバスでよかったよね。一緒だったら黄色い声で地獄だっただろうし。私、女の媚びてる声って大っ嫌い」
「あんな噂があるのによくキャーキャー言えますよね」

「一夜でいいからって軽い考えの子が多いんじゃない?」
「工藤さんはそういうの、あんまり好きじゃなさそうですね」

言い方からして軽蔑していそうだと推理すると、工藤さんはわずかに眉を寄せ首を傾げた。

「どうしても寂しくて耐えられない日に誰でもいいから一緒にいて欲しい、とかならわかるんだけどね。ただ美形だから一晩だけだとしても思い出になるからいいみたいなのはわからないかな」

「なるほど……わかります」

ぴゅうっと吹き付けてくる海風に、巻いているマフラーで口元を隠す。

〝あんな噂〟というのは松浦さんの女癖の悪さを謳ったものだった。
恋人がいる女性ばかりをターゲットにしておとす。そして、たちが悪いのが、女性が自分に振り向いた途端に興味をなくすという部分だった。

捨てられた女性は泣きながら会社に押しかけてきたり、ストーカーのようになり果て松浦さんをつけ回し警察に通報されたりと散々だ。

そんな噂があるにも関わらず、松浦さんに相手にされたいという女性があとを絶たないというのだから、人間顔がすべてなのかもしれない。
性格がどんなにクズでも顔が極上ならそれだけでいいのか。

そんなことを冷めた目で考えていたとき。

「篠原友里ちゃん」

うしろから名前を呼ばれた。

フルネームで呼ばれたことに警戒しながら振り向いた先にいたのは、今まで話題に上がっていた松浦治だった。




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