オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
一八十センチ近い身長に、甘く整った顔。奥二重の目に、スッと通った鼻筋、そして形のいい唇。
髪は社会人として好感を持てる長さで、ヘアスタイルだって凝ったものではないのに、やたらと洒落て見えるのは顔立ちや雰囲気のせいだろう。
チェックのシャツに黒いカーディガン、その上に濃いベージュ色のレザージャケットを羽織り、下はジーンズを合わせたっていうシンプルなコーディネートなのに雑誌から抜け出したモデルのように見えるのもきっと同じ理由だ。
私は面食いではないけれど、それでも圧倒されるのだから、よほどなんだろう。
通り過ぎていく女性がチラチラと向けてくる視線が私でさえうっとうしいのに、当の本人はまったく気にするわけでもなく綺麗な微笑みを浮かべていた。
「……よく、私のフルネームなんて知ってましたね」
部署が違うし、仕事でも直接関係しないから、こうして話すのは初めてだ。
松浦さんは有名人だから私も知っているけれど、私の名前を知られているのはおかしいと疑問が残る。
探るようにじっと見ると、松浦さんは「知ってるよ。気になってたから」と答える。
「趣味は読書」
なるほど、参加者名簿を見たのか……と、趣味を言い当てられたことで納得しつつ「で、なんでしょうか」とそっけなく聞く。
立ち止まっている間も風がぴゅうぴゅう吹き付けてくるし、ジェットコースターからの悲鳴はうるさいし一刻も早く水族館に避難したい思いでいっぱいだった。
同じ支部ではあるものの、部署が違うため一度も話したことはない。
そんな松浦さんに呼び止められる理由が見つからず眉を寄せていると、松浦さんはにこりと笑う。
胡散臭い笑顔だと思った。
「ちょっと話があるんだけどいいかな。できたらふたりで」
「……なんでしょう。ここだとまずい話ですか?」
あまりふたりきりにはなりたくない。直感的に思い聞くと、松浦さんは「んー」と曖昧に笑う。